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冷えた身体
「そっち、お風呂場ですから入って下さい」
「……」
「冷えてるでしょう? ほら、さっさと入った入った!」
脱衣所で男性からスーツやらシャツやらを奪って、俺はそれらを洗濯機に放り込んだ。言い方は悪いけど、ゴミ捨て場のにおいがしてたし……。
洗剤と柔軟剤を投入してスイッチを押す。乾くまでは父の服を着せて置けば良いだろう。俺は最後にもう一度だけ男性の背中を押してから父の寝室に向かった。タンスの中から部屋着を拝借してから脱衣所に戻ると、シャワーの音が聞こえて来た。良かった。ちゃんと入ってる。
タオル置きの上に部屋着を置いてから、俺はリビングに入った。
「あ! 買い物を頼まれたんだった!」
俺は慌てて家を飛び出してスーパーに向かう。頼まれたものを急いでカゴに入れて会計を済ませた。カフェに戻ると、案の定父に文句を言われる。
「遅いぞ! 寄り道してただろ!」
「違うよ、人助けをしてたんだよ」
「人助け?」
首を傾げる父に、俺は背を向けながら言った。
「部屋着、借りたからね!」
「はぁ? そんなもの何に使うんだよ」
「あとで説明するから!」
男性のことが気になってしょうがない俺は、何かぶつぶつ言っている父を放っておいてカフェを出て自宅にダッシュした。
玄関のドアを開けてリビングに入ると、そこには父の部屋着を身に纏った男性がぼんやりとした様子で立っていた。彼は俺の存在に気が付くと、俯き加減に笑う。
「……シャワー、貸してくれてありがとう」
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