冷えた身体

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「大変だ! 洗濯機で簡単に洗っちゃ駄目なやつですよね! ああ、どうしよう……」 「大丈夫だよ」 「大丈夫じゃないですよ!」 「良いんだ……もう、あのスーツには袖を通したくないからね」 「え……?」  どういう意味だろう。  何か、嫌な思い出でも詰まっているのかな?  男性にそれを確かめる前に、洗濯機がピーピーと鳴った。洗濯完了。俺はドライヤーを切ってリビングを飛び出し洗濯機の蓋を開けた。 「……あちゃー」  普通のモードで洗ったスーツはぐちゃぐちゃに捻じれてしわしわだった。優しく洗うモードだったら、もっと救いはあったかもしれない。  固まる俺に、男性がゆっくりと近付いて来た。洗濯機の中を覗き込んで、ははっと力無く笑う。 「乾燥もしてもらえるかな? 乾いたらすぐに帰るから……」 「えっ、でも、これ乾燥したらボロボロになっちゃいませんか?」 「良いんだ。もう……着たくないけど、着ないと帰れないし。帰ったら処分するよ」 「父の服で良ければ貸せますよ?」 「……ありがとう。君は優しいね。大学生?」 「はい。二年です」 「そっか、それじゃあ、春からはそろそろ就活かな? 僕のところに来る? なんてね……」 「……?」  男性の言葉の意味が分からない。  首を傾げる俺を見て、男性はまた俯いてよろよろとリビングに向かった。俺は躊躇いつつもスーツを乾燥機に放り込んで起動のボタンを押す。機械の中でぐるぐる回るスーツを一瞬だけ見て確かめてから、慌てて男性の背中を追いかけた。 「あ、あの! お茶でもどうですか?」 「……いえ、お気遣いありがとう」
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