冷えた身体

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 男性の目元には隈が見える。  いったい、この人に何があったって言うんだ。 「俺、胡桃なぎさって言います! 父がカフェをやってて、そこの長男です! お兄さんは何て言う名前なんですか?」 「お兄さん……僕のこと?」  男性は目を丸くした。 「お兄さんって歳でもないんだけどね……僕は、結城。結城冬真。こんな寒い冬の日に生まれたからそう名付けたって親が言っていたなぁ」 「結城さん、俺、調理師免許も何も持っていないけど、お茶くらいは出せます。牛乳を温めることも出来ます。スーツが乾くまでまだ時間があるから、何か飲んで下さい」 「でも……」 「俺はカフェの三代目……になるかはまだ分からないけど、とにかく、そういう血を引いてるんです! 俺を信用して、何でも注文してください!」 「……そっか。それじゃ、紅茶が飲みたいな」 「ご注文、ありがとうございます」  わざとらしく俺は深々と礼を言うと、結城さんはふっと笑った。元気はないけど、自然な笑顔。良かった、笑ってくれて。  俺はキッチンで紅茶を探す。妹が良く飲んでいるやつが……あった! 有名メーカーのティーバッグ! 俺はそれをマグカップにセットして、ポットのお湯を注いだ。二分程放置してからティーバッグを取り出し、スティックシュガーを入れて混ぜる。これで完成! カフェでこんなの出したら怒られるに決まってるけど。 「お待たせしました」 「ありがとう」  結城さんはカップを受け取ると、ふーっと紅茶に向かって息を吐いた。熱かったかな? 氷を入れれば良かったかな?  どきどきしながら見守る俺の視線に気が付いたのか、結城さんは苦笑して言った。 「……猫舌なんだ。良い歳して恥ずかしいな」
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