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「猫舌に年齢は関係無いですよ」
俺の言葉に結城さんは微笑む。
「そう言ってもらえると救われるよ。よく子供っぽいって言われるから」
「うちの店で、冬でもアイスコーヒーを注文するおじいちゃんのお客さん居ますし」
「ふふ。僕もそう。会社の付き合いでは相手に合わせてホットコーヒーを飲むけど、プライベートではいつも冷たい飲み物を注文するんだ」
それから数回息を吹きかけてから、結城さんはカップに口をつけた。
「……美味しい。身体の芯まで温まるよ。さすが、カフェの息子さんだね」
「いえ、こんなのは誰でも出来ることです」
「そんなことは無いよ。誰かの心を満たす飲み物を淹れられるというのは、素晴らしい才能さ」
「……」
ストレートな褒め言葉に、俺は照れて何も言えない。結城さんも黙ったまま紅茶を飲んでいる。俺たちは静かにソファーに並んで座った。
……訊いてもいいかな。この人に、何があったのかを。
俺は、視線を結城さんに向けた。
「あの……どうして、ゴミ捨て場になんか居たんですか?」
「え?」
「さっき、どうしてあんなところで寝てた……倒れてたのか、気になって」
「あぁ……」
結城さんは俯く。
「簡単に言うとね、婚約者に捨てられたんだ」
「婚約者……は? え? 捨てられた!?」
「そう……もちろん、ゴミ捨て場にポイってされたわけじゃないよ。ははっ。当たり前だけど」
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