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「あの人は、健次さんに決まっているじゃない。二人で出かける約束を明日してるのよ。とっても楽しみだわ」
健次さん──父の名前だと思う。父はもう何年も前に病気で逝ってしまったけれど、母はその事実さえも忘れてしまっていた。
「……ねぇ、お母さ……」言いかけて、言葉を呑み込む。母が父と結婚する前に戻っているのなら、せめて話を合わせてあげようと思った。
「明日会ったら、どんな話を二人でするの?」
髪を結い上げながら、そう尋ねた。
「どんな話……なのかしら? なんだかとっても大事な話があるからって、健次さんが言っていてね。だからね、今から私ドキドキしているのよ」
「大事な話……」
呟いて、ふと壁に掛けられているカレンダーに目を移した。
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