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「──お母さん、元気にしてた?」
──病院に入院している母を訪ねると、ベッドの上に半身を起こして意外に元気そうにしていた。
「あら……。あなた……どなた、だったかしら?」
母は認知症を患っていて、一人娘の私のことも、もう覚えてはいなかった。
「ああ……えっと……」
返事に窮していると、
「ねぇ、あなた髪を結えるかしら? 私ね、明日は約束があるから、髪を結ってほしいのだけれど」
と、母が私に笑顔を向けた。
「うん、いいよ。私が髪きれいにしてあげるね……」
ベッド脇のひきだしからブラシと手鏡を取り出して、少しだけ切ない思いで母の髪を梳いていく。
「べっぴんさんに仕上げてね? だって、あの人との約束なんですもの」
にこにこと笑って話す母に、
「……あの人って、誰なの?」
と、といた髪を束ねながら問いかけた。
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