「約束の日」

3/5
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「──お母さん、元気にしてた?」 ──病院に入院している母を訪ねると、ベッドの上に半身を起こして意外に元気そうにしていた。 「あら……。あなた……どなた、だったかしら?」 母は認知症を患っていて、一人娘の私のことも、もう覚えてはいなかった。 「ああ……えっと……」 返事に窮していると、 「ねぇ、あなた髪を結えるかしら? 私ね、明日は約束があるから、髪を結ってほしいのだけれど」 と、母が私に笑顔を向けた。 「うん、いいよ。私が髪きれいにしてあげるね……」 ベッド脇のひきだしからブラシと手鏡を取り出して、少しだけ切ない思いで母の髪を梳いていく。 「べっぴんさんに仕上げてね? だって、あの人との約束なんですもの」 にこにこと笑って話す母に、 「……あの人って、誰なの?」 と、といた髪を束ねながら問いかけた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!