拒絶された嗜好

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「・・・」 あんなに騒がしかった部屋がやっと静かになった。 ようやく暴れ回る陽向が大人しくなったのだ。 「陽向・・・」 「・・・」 呼びかけても返事はない。 ぐったりとしていて疲れたのかもしれない。 拒絶されなくなったことが嬉しくてたまらなかった。 ―――ようやく私の気持ちを受け入れてくれたんだね・・・。 ―――これで陽向は私だけのものになった。 背中を壁に預ける陽向の目線に自分も合わせ、頬を優しく触った。 親友であったために、触れたことは何度もある。 だがこうして想いを伝えてから触れるのは初めてだ。 「陽向、温かい・・・」 撫でていると徐々に陽向の頬が赤く染まっていく。 「・・・私たち、汚れちゃったね。 一緒にお風呂に入ろう?」 「・・・」 「大丈夫。 私が綺麗に全部洗ってあげるからね」 血の付いたナイフを机に置くと陽向を抱え浴槽へと向かった。 お湯は溜めていないためシャワーの温度を調節し、隅々まで身体を洗ってやる。 ずっと一緒に入りたいと思っていた。  その念願の夢が今叶ったのだ。 「これで綺麗になったね」 お風呂から出るとサイズの合いそうな部屋着に着替えさせる。 「風邪を引いちゃうから、ドライヤーも私がしてあげる」 全て自分がしてあげた。 こうして尽くして喜びを見出すのが千晴だった。 陽向をソファに座らせる。 「陽向、すっぴんでも十分に可愛いね。 羨ましくなっちゃう。 ・・・でも、もっと綺麗になる?」 そうしてメイク道具を持ってきた。 自分流ではあるが自分の好みの顔に変えていく。 「・・・うん。 さっきよりも物凄く綺麗になった」 自分好みの姿になり満足した。 「ねぇ、二人きりだし何かして遊ばない? ・・・トランプとか?」 トランプを引き出しから取り出した。 何度も一緒に遊んだ思い出が染み込んだトランプだ。 それに新たな思い出を染み込ませるため、二人分に分け七並べを始める。 「ほら、次は陽向の番だよ」 「・・・」 「陽向、どうしたの? どうしてカードを出さないの?」 「・・・」 「しょうがないなぁ。 もうパスは使い切っちゃったから、私も一緒に考えてあげるよ。 陽向のカードを見せて」 自分のカードを出し陽向のカードを出しの繰り返し。 そうして陽向が勝った。 「負けちゃった。 陽向、強いね。 流石だよ」 トランプに飽き次はテレビゲームをしようとする。 隣同士に並びゲームの電源をつける。 「はい、コントローラー。 また勝負でもしない?」 話ながら操作を進めていく。 「ほら、陽向。 操作をしてみてよ」 そう言うも陽向のキャラクターは一切動かない。 「陽向、動かしてみてよ」 「・・・」 陽向からの返事もない。 静まり返ったこの状況にようやく千晴は我に返った。 「・・・あれ? 陽向?」 「・・・」 「陽向、どうしたの?」 陽向に異変を感じ頬を触ってみた。 すると陽向は冷たくなっていた。 有り得ない状況に思わず笑ってしまう。 「・・・え、もしかして死んでるの? どうして?」 部屋をゆっくりと見渡した。 すると陽向の血で染まったナイフが床に落ちていた。 「ナイフ・・・。 殺した・・・?」 今までの記憶を辿ってみる。 「殺した・・・。 私が陽向を殺した・・・!?」 だがそれが分かっても不思議と気分は落ち着いていた。 二人だけの生活がこれから始まると期待に胸を弾ませていた。 「はは・・・。 何か、変な気分」 小さく笑うと母に直接繋がる連絡先を呼び出した。
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