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蒼井のつぶやきを肯定するように、正面に立つせつなは、必死で首を縦に振った。
しかし、蒼井は、そんなせつなの姿が見えず、手の中の指輪ばかりを見つめている。それ以上言葉が出てこない蒼井に代わって、小石川が確認のため口を開いた。
「成瀬。これは、せつなの物なのか?」
「うん。そう。今まで、気にしていなかったんだけど、折り紙の花は普通に見えているし触れているんだから、物ならみんなにも見えると思って。今、せつなから借りたんだ」
「今……そうか。……じゃあ、やっぱり、せつなはそこにいるんだな?」
せつなは、顔を歪め、零れ落ちる涙を堪えながら、小石川の言葉に応えるように、何度も何度も首を縦に振る。そんなせつなにチラリと視線を送った浩志は、大人たちに信じてもらおうと、再び力強く頷く。
「ここにいるよ。蒼井先生の目の前で、泣いてる」
浩志の言葉にハッとした蒼井は、目の前の何もない空間に目を向ける。途端に、涙声になった。
「せつな……泣いているの? ごめんね。ごめんね。お姉ちゃんに、せつなのことが見えないから、悲しくて泣いているの?」
せつなは、涙を手の甲で涙を拭いながら、必死で蒼井の言葉を否定する。
「違うよ。お姉ちゃんにせつなの姿が見えないのは、残念だけど、せつなは、悲しいから泣いているんじゃないよ。嬉しいから……嬉しすぎて涙が出たの。だって、見えなくても、みんながせつながここに居るって分かってくれたから」
心配そうに見守っていた優は、せつなの言葉を聞いて、安堵の笑みを漏らす。
「せつなさんは、悲しいから、泣いているんじゃありません。先生たちに、自分の存在を示すことができて、自分がここに居るって分かってくれたことが、嬉しいんだそうです」
通訳する優を食い入るように見つめていた蒼井は、涙を堪えるように、眉間に皺を寄せ、口元を手て覆いながら、辛そうに、しかし、どこかホッとした様子で、無言で相槌を打った。蒼井の傍らに佇む新郎の正人は、そんな蒼井を支えるように肩にそっと手を添えていた。そんな正人の目元にも光るものがある。
「せつな……、あの……」
蒼井が何かを言おうと口を開いたが、気持ちが追いつかず、何も言えずに口籠った。しばらくの沈黙が続いたあと、皆と同じように目を赤くした小石川が、気遣うように声をかけた。
「永香。もうそろそろ……。生徒がざわつき出しているし、次の予定もあるから」
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