3.2月16日

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「い、いや。元はと言えば、持って帰った俺が悪いし。それ、大事な物……だよな?」 「……お姉ちゃんに貰った」 「そ、そうか……でも、それはもう、学校へは持ってこない方がいいぞ」  浩志の言葉に、少女は、小さく首を傾げる。 「いや、その、小さいから失くしやすいじゃん。それに、誰かに見つかって取られるかもしれないし。……まぁ、俺が言えたことじゃないけれど」  浩志は苦笑いをしつつ、少女の顔を見る。少し大きめの真新しい制服に包まれた少女は、浩志の言葉に、どこか悲しげな顔を見せる。 「……でも、コレはお姉ちゃんがくれたものだから……」  手の中の指輪を固く握りしめた少女の言葉は、どこか要領を得ない。 「だから、お前の大切なものなんだろ? 失くしたくないなら、持ってくるなよ。家で大事に保管しておけよ」  浩志の言葉に、少女は、イヤイヤをする様に、頭を横に振る。そのどこか子供じみた仕草に浩志は、小さな苛立ちを覚えた。 「そうかよ。まぁ、どうでもいいや。俺には関係ないことだし。また、失くして困るのは、お前だしな。それじゃあな」  浩志は、苛立つ思いを抑え込み、それだけ言うと、(きびす)を返す。  後味の悪い別れ方に、軽く舌打ちをして、数歩進むと、冷たい風に乗って、また、微かに声がした。 「……じゃ、ない……」 「えっ? 何?」  浩志は思わず振り返り、少女に聞き返した。  少女は、両手を固く握り、体の内から絞り出すように声を張った。 「お前じゃないもん!」 「はっ?」 「せつなは、お前じゃないもん!!」 「せつな?」 「せつなは、せつなだもん。お前じゃないもん!」  少女は、両眼に涙を溜めて、浩志に挑むような視線を向ける。その視線を無防備に受けつつ、しばらくの間、浩志の頭の中では、少女の言葉がリフレインされていた。  そして、浩志は、ようやく、少女の言葉の意味を理解した。 「ああ、お前、せつなって名前なのか!」 「お前じゃないもん!」  浩志の言葉に、せつなは、眉間に皺を寄せて、噛み付いてくる。 「ああ。ごめん。それじゃあ、せつな。大切な指輪失くすなよ」  浩志は、せつなに向かって軽く手を上げると、また踵を返し、校舎内へと戻っていった。
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