1.2月14日

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1.2月14日

 中学2年の成瀬浩志は、教室に一人残されていた。  部活動に励む生徒たちの声が校内に響くなか、浩志は、窓際の一番後ろの席に座り、先ほど担任より手渡された数学の課題に取り組んでいる。  彼は、朝早く起きることが苦手で、始業のチャイムに間に合わない事がしばしばあった。  そのため、中学2年になった頃には、遅刻の常習犯として、校内での地位を不動のものとしていた。  今日は、ここ数日の度重なる遅刻の罰として、担任より、一人、補習を言い渡されたのである。  課題に取り組んではみたものの、数学の苦手な彼では、自力で解けるはずもなかった。 浩志は考えることをやめ、窓の外に目を向けた。  彼の座って居る場所からは、中庭を見下ろすことができた。  中庭には花壇がある。春には色とりどりの花が咲き、中庭を賑わせていたが、そんな花壇も、2月の今は、茶色い土が剥き出しになったまま、寒々としていた。  今は何もない中庭を何気なく見下ろしていた浩志の視線は、ある一点に向けられた。  視線の先には、少女が一人いる。  肩ほどまである髪を二つに分けて縛り、幾分か大きめの真新しい制服を着たその少女は、殺風景な花壇をじっと見つめている。  少女の真剣な眼差しが気になったのか、浩志は席を立ち、窓へと近づいた。  浩志が少女の視線の先を確認しようと窓から身を乗り出したちょうどその時、教室の扉を勢いよく開け、一人の女子生徒が入って来た。 「やっぱりサボってる!」  浩志のクラスメイトである河合優は、そう言いながら、彼のそばへとやってきた。 「何してるの?」  浩志は窓から外に出かけていた頭を引っ込め、優の方へと向き直った。 「別に。ただあいつは何見てるんだろうと思ってさ」 「あいつって?」 「ほら。あいつ……アレ?」  二人は並んで窓から中庭を見下ろしたが、少女の姿は、もうそこにはなかった。 「誰もいないじゃない? 何もないし」 「おかしいなぁ……。あいつ、この寒い中、コートも着ないで外にいたんだぞ。何かをじっと見てたんだって!」 「夢でもみたんじゃないの?」  そう言うと優は窓から体を離し、机の方へと向き直った。机の上には、先ほどまで浩志が取り組んでいた課題が、ほとんど手付かずのまま残されていた。  優は課題を取り上げると、内容を確認し始めた。
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