2.2月15日

1/2
前へ
/121ページ
次へ

2.2月15日

 翌日。  浩志は、彼にしては珍しく、遅刻も居眠りもすることなく、平穏に1日を終えた。  彼の学校では放課後は、優や他の生徒のように、部活に参加するのが本来であり、もちろん彼も部活に入っている。  だが、放課後に補習を言い渡されることが多い浩志は、部活に参加することの方が稀であり、ほぼ帰宅部となっていた。  昨日までの放課後は、部活に励む生徒たちの声で校内が賑わっていたが、今日からは学年末試験期間になり、生徒たちは授業を終えると、数日後に控えるテストに備えるためか、早々と帰宅していった。  それなのに、浩志は生徒指導室で、何部もあるプリントの山を前に、一人黙々とホチキス止めをしている。  他の生徒のようにすぐに帰宅する気になれなかった彼は、渡り廊下から中庭を見下ろしていた。 浩志は昨日見かけた少女のことが気になっていたのだ。  中庭は、いつもと変わりなく殺風景なままだ。 (でも、あいつは何かを見ていたんだ)  そんなことを考えながら、ぼんやりと中庭を見ていると、英語教師の小石川に声を掛けられた。 「おっ、成瀬。暇そうだな? まだ帰らんのか?」 「なんだ、こいちゃんかぁ」 「なんだとはなんだ。それに小石川先生と呼べ。全くお前は……」  そう言いながらも、小石川は腹を立てた様子もなく、浩志の隣に並んだ。  サッカー部の顧問をしている小石川は、浩志が1年生の時のクラス担任でもあった。  遅刻や居眠りといった問題の多い浩志を見離さず、1年間ちゃんと向き合ってくれた彼は、強引で少々熱血気味な教師だが、そんな小石川を浩志は慕っていた。  彼がほぼ帰宅部になりながらも、未だにサッカー部に籍を置いているのは、この教師が顧問だからかもしれない。 「何してるんだ? こんな所で」 「別に。何も。帰っても勉強とかしないし」 「そうか。先生としては勉強してほしいんだがな……。まぁ、じゃあ、先生を手伝え」 「はぁ?」 「ちょうどよかった。今日中にやらなきゃいかんのだか、急に会議の予定が入ってな。困ってたんだ」 「……」 「いや~助かるよ成瀬。いい生徒だなぁお前は」 「……俺、まだ手伝うって言ってないけど」 「先生のクラスで使うプリントなんだけどな、ホッチキスで一部ずつ纏めてくれ」 「……」  小石川の強引さは、いつものことだ。  彼を慕っている浩志は、口では否定的な事を言っていても、それ程嫌な思いはしていなかった。  しかし、素直に手伝うと言い出すこともできず、ただ黙っているだけの浩志に、小石川は冗談めかして言った。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加