【完】音無くんは、今日も図書室で歌う

9/18
前へ
/18ページ
次へ
卒業式の前日。 あたしが曲を作ってくれと口が滑ったのは、卒業式の3ヶ月前。 3ヶ月も前だから、忘れられているのか、元々作る気がなかったのか、作ると言ったものの面倒になったのか。そのどれかだろうと思っていた。 そして冒頭に戻るわけだ。 あたしは一度もあの日から、曲はどうなったかと音無くんに聞くことはなかった。 勇気がなかったから。 だけど、明日が卒業式だと思ったら、悲しくなった。 もうここで会うことはできない。 この図書室だから、あたしは音無くんと話せたのに。 もうここに来ることはなくなる。 あたしは音無くんの連絡先も知らない。 音無くんの好きな食べ物も知らない。 どんなテレビを見て、休日はどんなことをして過ごすのか、何も知らない。 あたしが音無くんについて知っていることと言えば、声が綺麗で、繊細な言葉を知っていて、細く綺麗な指でギターを触る事くらいだ。 あの日以来、名前も呼ばれていない。あれも、名前を知っていただけで、呼ばれた訳ではないか。 苗字でもよばれることがない。 君 そう言われる。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加