第一章

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歩夢は側で寝ている明を疲れた顔をしてみていた。 明は両親と同じ車に同乗していたが奇跡的に怪我一つなかった。 「歩夢。車のブレーキが利かないのとエンジンがおかしい。」 切羽つまった声で誠一から無線で対話があった、並走してスピードがマックスになる前に衝撃をやわらげて車を止めようとしたがハンドル操作を誤りカーブの所でガードレールを突き破り深くはない崖へ落ちた。 すぐに車を止めて救助に行きその時、二人は怪我をしていたがベビーシートに守られていた明は怪我一つなく驚いて泣いているだけのようで安心した。 痛みをこらえながら運転席から這い出た誠一がマリアの様子を確認していた。 「歩夢、明を安全な所へ。俺はマリアを車から出して崖を登るから。」 誠一も大きな怪我は無かったがベビーシートの横で明と一緒に後部座席に乗っていたマリアが頭から血を流していた。 明をベビーシートから助け出し抱き上げて誠一がマリアを救助し始めた事を見届ける。 「誠一。東条に連絡するか?」 「いや・・明をとりあえず頼む。」 「わかった。後で。」 泣いている明を抱えて緩やかだが崖を登り自分の車にたどり着いたその時。 大きなバーンという爆発音と共に車が炎上した。 「誠一!マリア!」 「明を頼む。」 誠一の声が聞こえたから車から出ている事は解ったが煙で何処にいるかまでは確認できなかった。 マリアの声がしない事が気がかりだったが うどん屋での報告の内容と今回の事故は無関係で無いとしたら明を守る為に身を隠す事を歩夢は選択した。 こんな時自分が嫌になることが歩夢にはある。 エージェントだった経験から感情的になれない常に本能で冷静に行動する。 無線などで情報を集め東条総合病院へ搬送されたのは確かだったから本当はすぐにでも明と一緒に病院へ駆けつけたかった。 しかし、誰が味方で誰が敵かが解らない状況では身動きが取れない。 「明も医者に診せたほうがいいよな。」 泣き疲れて眠る5歳になったばかりの明とこの時からずっと一緒にいる事になるとはこの時は思ってもいなかった。 すぐに問題は解決してまた三人の仲の良い親子の姿を見れると思って疑っていなかった。 朝のニュースを見て衝撃を受け同時に明が起きたようだったから子供用の番組に切り替えた。 「昨日未明に崖から転落し重体だった・・・・死亡しました。」 五歳になれば親の名前くらい解るし写真も出ていたから解る・・見せるわけにはいかない。 「あゆちゃん・・パパはママは?」 「うーん。仕事でね少しの間会えないってほら前もあっただろ?」 「うん。でもママ怪我していたよ。」 「その治療もあるから一緒にパパとママはいるから。」 明は幼いころから歩夢の事をあゆちゃんと呼んで懐いてはいたし歩夢も可愛がっていた。 誠一夫妻は歩夢にとって仲間以上の存在で恩人だった。 昨日うどん屋で話した内容はマリアの次兄が誠一とマリアの排除を計画しているという内容だった。 「俺の兄貴なら解るが榊原正和が俺達を狙ってどうするんだ?」 「一つは単純にマリア一人減れば相続する時に分け前が増える?」 そう俺が言うとマリアは「それあるかも~。」と何でもない事のように言うからどれだけ出来が悪い兄なんだよと言った。 その直後に車に異変なんて偶然にしたらおかしい・・・。 ブレーキに細工していればすぐにではなく時間を置いてブレーキが利かなくなる事はある。 誰がどう動いているのか全体像が複雑すぎて見えてこない。 ただ東条にも榊原にも怪しい人物がいるそんな所に明を任せられるはずがない。 「明の婚約者か。」 王立人は本人には問題はないがリーレンの兄と前妻の一族が問題がある。 誠一を初め一家に何かあれば得をするのは? 榊原 和正と東条家の兄達とリーレンの兄と前妻の一族か・・・。 明がいなくなれば東条の孫娘の婚約者として後見を受けていたリーレンにとってはマイナスで東条家当主もまた誠一に対する愛情には嘘はない。 集めた情報を不確かなものは排除して確かなものだけを選別する。 電話が鳴ったからすぐに歩夢は電話に出た。 「伊集院 歩夢さんのお電話でしょうか?私は王と申します。」 まだ若い声だが落ち着いた口調で話す王に歩夢は 「はい。こちらから電話するつもりでした。」 と答えた。
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