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「大きくなりましたね。」
真夜中に王は歩夢の元に一人でやってきた。
細身の彼は深く帽子をかぶり上下を地味な色の服装をして気配を殺して入ってきた。
スヤスヤと眠る明を優しい目でみる青年を歩夢は警戒したが、彼の提案は彼を信じていいと歩夢の本能が告げるようなものだった。
「王グループの私の兄の母親の一族が関係しています。それに東条の次兄が黒幕でしょう。榊原の次兄は実行犯なだけだと思いますがすでに逃亡しています。」
彼の見解と歩夢の見解は同じだったし彼の場合は裏を調べての事だと歩夢は確信できた。
「それでどうすると?」
「明を伊集院 明として育てていただけませんか?」
「東条清五郎が黙っていないと俺は思うが?」
「私が説得しますし、東条も王も今は内憂外患といった所ですから。それに今の私が、明を連れ帰ったとしたら明を危険に晒すだけです。」
それはもっともな事だと歩夢は思う彼は自分の今の状況を冷静に判断してるようだった。
「東条も王も問題がある…か。」
「明の安全が第一だと思っています。もちろん養育費や仕事に関しては、全面的なバックアップをするつもりです。」
「俺が何者かも解っていると言う事か?」
ハイともイイエとも言わずに彼は肯定も否定もしない。
それは正しい行動だと俺は判断した。
「養育費はいい。仕事のバックアップだけお願いできればありがたい。一人ならどうとにでもなるが明を連れているから、できるだけ安全な場所が必要だ。」
「解りました手配します。明を健やかに育てていただきたいのです。出来るだけ早く王家を制圧します。」
制圧というのは自分が総裁の座につくという意味だと歩夢は思った。
まだ年若いかれが今すぐという訳にはいかなだろう。しかし彼の目は本気を表している。
「わかった。明は俺が守り育てようだからワン・リーレン君は早く明を迎えにこれるように準備してくれ。」
何年かかってもいい、確実に彼が総裁にならない限り明の安全とはほど遠い。
深い闇のある組織が王グループだと言う事を歩夢も理解はしている、だからこそ安全に生きる為には彼の場合、特に総裁になる必要がある。
「明が20歳になった頃に迎えにきますが、頼みがあります。」
「なんだ?」
「時々でいいので明の成長を見せて下さい。画像や動画でもいいです。」
誠一が彼を守る為に、東条清五郎の後見を彼につける為に彼を明の婚約者としたことは歩夢も聞いていた。
しかし便宜上と聞いていたがハッキリとは判断できないが目の前にいる彼は、少なくても明を守るつもりでいるのは確かだった。
「ああ、安全な時には送るよ。」
完全に安全な状況になるまでは、会いに来るなとも歩夢は言った。
「東条清五郎にも同様だと伝えてくれ。」
リーレンは黙って頷いてそっと明の額を撫でて姿を闇の中に滑らせるように出て行った。
「ただのお坊ちゃんでは無いみたいだな。」
身のこなしはプロの訓練を受けているのは確かだった。
この日から明は伊集院 明と名乗り生活するようになった。
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