プロローグ

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プロローグ

 闇夜に満開の桜がライトアップされた優雅な庭園で東条家一族と姻戚関係の者が集まる華やかなパーティの最中小さな女の子が桜の枝を持ち上座に座る人物にそれを差し出す。 「御爺様これどうぞ。」 孫娘が持ってきた桜の枝を受け取り先ほどまで厳しい厳格な様子を崩して目を細め枝を使用人に手渡し孫娘を抱きあげた。 水色のドレスを着て髪を三つ編みにして可愛い花をつけているその孫娘は当主東条 清五郎の末息子の娘だ。 末息子の名前は東条 誠一といい長男でもないのに「一」とつけられているのはこの末息子に対する期待を表していると言われていた。 末息子の妻の東条 マリアは中国人の母親と日本人のハーフで榊原家の出だった。 榊原家は中国企業と強いパイプを持ち一代で成り上がった家系だった為に東条家の一族は何かとマリアを軽視していたが、清五郎は違った。 マリアは控えめで誠一より年上でははあるが医師の免許も持つ才女だ。 親族の一部は、難癖をつけ自分達の決めた娘を誠一にと躍起になっていたが誠一はマリアと出会い結婚しすぐに産まれたのが「明」で三歳になったばかりだった。 「お父さんお久しぶりです。」 夫婦で父親に対面するのは一年振りであった「フン!明が覚えていたから許してやろう。」清五郎は孫は何人かいるが何故か明を気に入り目の中に入れても痛くないほど溺愛していた。 清五郎は還暦は超えているがまだ見た目も若く後継者という言葉は憚られる状況ではあったが密かに「末息子の誠一ではないか?」という噂があった。 噂だけで長男も次男もいる中で公に言う人はいなかった。逆に自由にやりたい事をやらせている事から違うだろうという意見もある。 誠一の母は清五郎の後妻で既に亡くなっているがその後に後添えをという話を無言を貫きクビを縦には振らず清五郎に現在妻はいない。 長男の清二は自分の名前に劣等感があった、単純に清一という名前は良くないと占い師に言われた清二の母親が清二にしたのだが長男なのに末っ子に「一」が付いていて自分にはつかない事に不満を抱いていた。 しかし最も不満を抱いていたのは次男「恭二郎」だった。素行が悪く一族でも浮いた存在の彼は寵愛される誠一を妬んでいる。 長男次男は同じ母親だが末っ子の誠一は政略結婚の相手ではなく清五郎が愛した女性との間の子供だった。 だからこそ誠一が後継者となるのではという話は信憑性を強めていた。 「誠一、王家の息子を連れてきていたと聞いたが?」 誠一は一緒にいたはずの青年を探すが見当たらなかった。 「ええ、優秀な子ですよ彼の母親とマリアが親友で少し預かっていたんです。明も懐いていますよ。」 「リー。」 祖父の清五郎に抱かれながら明は王立人を見つけて手を伸ばす。その手を取り立人は明を抱きとめた。 「ジイより彼がいいのか?」 「リーは賢いのよ強いのよ。」 少年が青年になる移行期だろうがスーツを着こなし身のこなしは優雅な青年は清五郎を見ても物怖じもせず自己紹介をする。 「王立人です。お世話になっておします。」 綺麗な日本語で挨拶をする立人に清五郎も関心した顔をしていた。 王家と言えば王グループで裏はシンジケートでもあった。 綺麗な顔をした青年は笑顔でいるがどこか冷たい印象のあるまだ子供だった。 「お前が連れてきた理由は後見か?」 「ええ。僕では弱いですしお願いします。」 王家は複雑で力のない者は直系でも追いやられることがあり彼の場合は逆で綺麗な容姿と高いIQを持ち合わせていることから本家から命を狙われていた。 イタリアの路地で血に染まった少年を助けてみればまだ息があったからマリアが助けた。 急所は外れていたとは言え普通10代の子供ならパニックになっても可笑しくないのに青い顔色をしながらも彼は冷静だった。 名前を聞けばマリアの親友の子供で親友は我が子が狙われるとは思わず彼女は自分が動けば無事だと気がついた追っ手が動くと判断 して誠一家族に自分の息子の庇護を求めた。 彼を匿い日本に連れてきて傷が癒える数か月で明は彼に懐き彼も明には笑顔を見せるようになった。 彼が抱える問題は誠一が思うより大きく父である東条清五郎に後見人を依頼することになった。 「歳は離れていますが将来は彼らの自由ですが明の婚約者として彼の後見人をお願いできませんか?」 清五郎は一瞬難しい顔をしたが将来は彼らの自由ということは形だけでもそうすることで少しでも危険が少なくなるならと渋々ながら了承した。 この場でその婚約は発表され王立人は東条清五郎の後見を受けて後日、王家に帰る事になった。 不審な事があれば東条本家がそれを預かり調査するという意味もあり王の本家は慌てることになる。 後ろ盾のない出来が良すぎる青年は母と母の親友の手を借りて日本有数の財閥の後見を得たのだ。 この様子を黙ってみていた恭二郎は焦り溺愛される弟夫婦とその子供を邪魔に思うようになった。 「ほんとムカつく弟だよ。」 恭二郎はある人物を動かして策を練っていた。 マリアの兄は2人いるが長男は父親の後継者でマリアとも仲がいいが次男は自分と同じで長男を妬み財閥の一族に嫁いだマリアを妬んでいた。 権力と妬みと嫉妬が渦巻くパーティは華やかなまま終わりこの時に不穏の種は大きく育ちはじめていた。
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