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 私は学校の図書室が好きだ。静かだし、定期テストが近くない限り賑やかじゃない。それに、ここの本の匂いが好きだ。本が出す独特の匂い。新品のページを捲るたびに香るあの匂い。あれがこの部屋には充満している。  それに、元々私が読書家であるということもある。暇さえあれば本を読んでいるし、読書をしていないと食品の裏側に書いてある表示を読んでしまうほど、活字中毒に溺れている。  今日も私は図書室で、次読む本を決めていると、ふと一冊の本の前で止まった。前に、司書さんから聞いたことがある。この図書室で一番である、と。その話を聞いた時、一度興味は持ったが、今読んでいる本があったし、それからもずっとこの本について触れていなかったから存在を忘れていた。  私はその古本を取ると、すこし黄ばんだページを捲る。ちょっとかび臭い。長い間、誰も開いていなかったのだろう。それもそのはずだ。この図書室の角、しかも一番下に置いてあるのだから。誰も目には留めないだろう。 「冒険小説か……」  内容は、簡単に言ってしまえば一国の王子が、攫われた姫を取り返すために旅に出るという話だった。これに類似した作品を何冊か読んだことがあるから、何となく最後が想像できる。  私はペラペラと黄ばんだページを捲りながら、立ち読みをしていると、次のページを捲った瞬間、顔を歪める。ドッグイヤーがされていた。許せない。本を読むのに、栞をせずにドッグイヤーにしたり、本を裏返しにしたりする人が私は許せなかった。本が傷ついてしまうではないか。可哀想だ。  本にだって、感情が、命があるのだ。粗末に扱ってはいけない。人々がスマホを丁寧に扱うように、本ももっと丁寧に扱うべきだ。  私は溜息を吐きながら、そのドッグイヤーを直すと、視線を下に動かす。そこで、一枚のが挟まれていることに気が付いた。私はまた顔を歪めると、その紙切れを取ってポケットに仕舞おうとした。 「……何か
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