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 私は本を閉じて、元の棚に戻すと、その紙切れをまじまじと見つめた。その紙切れは、この本ほどでは無いが、少し黄ばんでいて、大分古いのだと分かる。前にこの本を借りた人がいれたのだろうか。いや、借りたとは限らない。ここで私みたいに立ち読みしていたのかもしれない。 「……N5って、何?」 「海上(かいじょう)さん、借りる本見つかった?」 「うわっ、ビックリした」  私は振り返ると、彼氏の後藤(ごとう)君がニコニコしながら私を見ていた。マスク越しでも、そのマスクに隠された笑みが分かるぐらいだ。 「何それ?」 「?」 「ちょっと見せて」  私は後藤君にその紙切れを渡すと、首を傾げてしばらく黙る。そして次に口を開いた時は、何か閃いたような顔をした時だった。 「だ」 「美術室?」  後藤君がこくりと頷くと、私は理解ができないといった顔をする。それを見て、マスク越しでも伝わったのか、後藤君がくすくす笑った。 「Nは方角を表してる。つまり、北。だから北と窓と5は机の番号じゃないかな。これを見たら、美術室だってすぐに分かるよ」 「……ごめん、意味が分からない」  後藤君は頭が良い。しかも勘が鋭い。定期テストでも常に上位をキープしているし、定期テストで良くもなく悪くもない順位の私とは、頭の出来が違うのではないかと思うぐらい、色んな雑学を知っているし、頭の回転が速い。  おまけに話は聞いてくれるし、優しいし、気遣い上手だし、最高の彼氏だと思う。だから、どうして私と付き合っているのか、どうして私に告白したのかがたまに分からなくなる。罰ゲームだったのではないかと疑ってしまうぐらいにだ。 「美術室の窓はに設置されてるんだ。理由としては、日光を入れないようにするためだよ」 「日光を入れないようにするため?」 「そう。もし日光が入ってしまったら、時間が経つにつれて影の形や角度が変わってしまうから、デッサンには不向きなんだ。だから、北側に設置されてるんだよ」 「そうなんだ……知らなかった」
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