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後藤君は、古本に手を伸ばすと、135ぺージを開き、9行目を見た。それからふーっと長い息を吐くと、私に古本を渡す。私は古本を受け取ると、9行目を見た。
『貴方が好きです』
私は顔を上げると、後藤君が目を細めて笑っている。私も笑い返すと、本を閉じて、元の場所に戻した。
図書室を出ると、私たちは教室に鞄を取りに戻って、それから玄関へと向かう。静まり返った校舎は、私たちの足音で埋まっていた。
「告白、だったね」
「随分と遠まわしのね」
「謎解きって探し物みたいだね。すごく楽しかった」
「そうだね、一種の探し物かも。答えを探す、的な」
後藤君がくすくす笑うと、私たちは外履きに履き替えて、学校を後にする。
「何だか思い出しちゃった」
「何を?」
「海上さんに告白した時のこと」
私は一瞬足を止めると、また動かす。後藤君はそれを見て、また笑うと、私はムッとした。
「後藤君は、どうして私に告白したの?」
私はやっとの思いで、後藤君にはっきりと言うと、今度は後藤君が足を止めて、私を見た。
「好き以外の理由なくない?」
後藤君はきょとんとした顔で私を見ると、私はまた固まり、後藤君から視線を反らした。後藤君は私に近づくと、私を覗き込むように見て、それからくすくす笑う。
「もしかして、罰ゲームとかだと思った?」
「……うん」
「心外だなぁ。僕はそんな人を傷つけるようなことはしないよ」
後藤君が歩き出し、私もそれにつられて足を動かすと、後藤君がゆっくりと動く雲を眺めながら言った。
「海上さんは面白い。可愛い。優しい。話す度に色んなことを知れる。周りをよく見てる。すっごくいい子。そして何より、僕の些細な変化によく気付く」
「……急に何」
「僕が海上さんが好きな所。僕がちゃんと海上さんのこと好きだよって知ってもらいたくて」
私は足元を見ながら、後藤君の隣を歩く。後藤君は私が何も言わないのを確認して、また口を開いた。
「覚えてる? 僕たちが高校1年生の時にさ、林間学校での出来事」
「林間学校……?」
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