1年生その2「夏生、暗闇を怖がる」

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 わいは立ち止まって、まわりを見渡した。  ドン、と後ろを歩いていたねえちゃんがぶつかる。 「ちょ、ちょっと!」  わいは、シーーって口に指を当てて、周りに懐中電灯を向けた。  草むらがガサガサガサガサっと揺れる。  ……来る!  バッと目の前に黒い塊が飛び出してきた。  ……!! 「なんや、ねこか」  わいは胸を撫で下ろした。 「いや、たぬきや」  ねーちゃんが、じっちゃんの腕を掴みながら言った。  また、静寂がやってきた。  そして、風が吹く。  なかなか足が進まなくなった。 「……怖いな」  わいはポツリっと漏らした。 「ほな、歌でも歌うかー」  とじっちゃんが言った。  ……おお、ええ作戦や。明るい歌で行こう。  じっちゃんは元気よく陽気に歌い始めた。 「う〜み〜は広いな、大きいな〜♪」  ……お、ええ感じや。 「行って〜みたいな、夢の国〜〜〜♪」わいも一緒に歌う。 「……」 「……」 「……2番は忘れた!!」  ……!!  暗闇が凍りついた。そして気持ち悪い間が体にまとわりつく。  次の瞬間、ジャリっと足音がしたかと思うと、ねーちゃんは一目散に走って来た道を戻っていった。  わいと、じっちゃんも、すぐに後を追いかける。  入り口の所で息を切らしたねーちゃんが、中腰で息を整えながら言ってくる。 「すぐ終わってまうような歌、歌うからあかんねん」 「ほな、どないすんねん」 「終わらん歌にすればええやん」 「終わらん歌?そんなんあるか?」 「カエルの合唱やったら、ずっと続けられるんちゃう」 「おお、なるほど」  ちょっと、ねえちゃんを尊敬した。 「ほな、トップバッターは誰や。先頭は誰が行く?」  わいはそう言うと、ねーちゃんとじーちゃんを見比べた。 「ねえちゃんやな」 「ま、ええわ。ほな、行くで。ちゃんと付いて来いや」  散歩道の闇に向き直ったねえちゃんが、力強く言った。  ……おお、ねえちゃんが、なんか格好よく見える。  ねえちゃんは、大きく息を吸い込むと、ゆっくり歩きながら歌い始めた。 ねーちゃん: 「カエルの歌が(次なっちゃん)、    聞こえてくるよ、       ゲロゲロゲロゲロクワックワックワッ」   わい:    「カエルの歌が(次じっちゃん)、       聞こえてくるよ、         ゲロゲロゲロゲロクワックワックワッ」   じっちゃん:      「カエルの歌が(ハッ)、         聞こえてくるよ(ヨッ)、           ゲロゲロゲロゲロクワックワックワッ(ホイ)」  ……ええ感じや。続けて続けて。 「カエルの歌が、キャアーーーーーーーーーーー」   「カエルのギョエーーーーーーーーーーーって何やねん」     「な、なんや、なんや、どないしたねーちゃん」  ねえちゃんが、急に暴れ出した。 「む、むし、むし、顔に当たった、いあや、いあや」   「な、なんや、虫かいな。びっくりしたなー、もう」      「カナブンや、カナブン、肩についとる」 「いやあ、とって、とって、とって」    「ねーちゃん、危ない!危ない!」       「じっとせい、取ってやるから、ほら、取られへんぞ」 「ねーちゃん、ばーちゃんバリアや」  わいは両手を広げてバリアを張った。  ねーちゃんも、必死に両手を広げバリアを張ってじっとした。  じっちゃんが、肩についたカナブンを取り除く。  泣きそうな、ねえちゃんはそのまま固まっていた。 「よし、今日の特訓はここまでや。ほら帰るで」  じっちゃんが、わいとねえちゃんの手を取って引っ張った。  こうして、今日の特訓はあっけなく終わった。  ミッション失敗や。  ジャンジャン。  そうして、今きた道を引き返す。  横を見ると、じっちゃんの反対側、項垂れたねえちゃんがトボトボ歩いていた。しょんぼりしてる。  わいは、自分の手を見て考えた。  そして、じっちゃんの手を離すと、ねえちゃんの前に立って、ばあちゃんバリアを張ってやった。 「だいじょうぶやで」とつぶやく。  そしてそのまま、ねえちゃんの前を、先頭を歩いた。  バリアに力を込める。  不思議と、さっきまで、あんなに怖かった道が、なんも怖くなかった。  ばっちゃんが守ってくれてると思うと怖くなかった。  ……ありがとう、ばっちゃん。  わいは、今日の特訓でちょっとだけパワーアップした気がした。  けど、家に帰るとやっぱり怖くて、この日はじっちゃんと一緒にお風呂に入った。  ばっちゃんバリアを一人の時に使うのは、まだまだ難しいようや。  よし、また明日から特訓やー!! Fin
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