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わいは立ち止まって、まわりを見渡した。
ドン、と後ろを歩いていたねえちゃんがぶつかる。
「ちょ、ちょっと!」
わいは、シーーって口に指を当てて、周りに懐中電灯を向けた。
草むらがガサガサガサガサっと揺れる。
……来る!
バッと目の前に黒い塊が飛び出してきた。
……!!
「なんや、ねこか」
わいは胸を撫で下ろした。
「いや、たぬきや」
ねーちゃんが、じっちゃんの腕を掴みながら言った。
また、静寂がやってきた。
そして、風が吹く。
なかなか足が進まなくなった。
「……怖いな」
わいはポツリっと漏らした。
「ほな、歌でも歌うかー」
とじっちゃんが言った。
……おお、ええ作戦や。明るい歌で行こう。
じっちゃんは元気よく陽気に歌い始めた。
「う〜み〜は広いな、大きいな〜♪」
……お、ええ感じや。
「行って〜みたいな、夢の国〜〜〜♪」わいも一緒に歌う。
「……」
「……」
「……2番は忘れた!!」
……!!
暗闇が凍りついた。そして気持ち悪い間が体にまとわりつく。
次の瞬間、ジャリっと足音がしたかと思うと、ねーちゃんは一目散に走って来た道を戻っていった。
わいと、じっちゃんも、すぐに後を追いかける。
入り口の所で息を切らしたねーちゃんが、中腰で息を整えながら言ってくる。
「すぐ終わってまうような歌、歌うからあかんねん」
「ほな、どないすんねん」
「終わらん歌にすればええやん」
「終わらん歌?そんなんあるか?」
「カエルの合唱やったら、ずっと続けられるんちゃう」
「おお、なるほど」
ちょっと、ねえちゃんを尊敬した。
「ほな、トップバッターは誰や。先頭は誰が行く?」
わいはそう言うと、ねーちゃんとじーちゃんを見比べた。
「ねえちゃんやな」
「ま、ええわ。ほな、行くで。ちゃんと付いて来いや」
散歩道の闇に向き直ったねえちゃんが、力強く言った。
……おお、ねえちゃんが、なんか格好よく見える。
ねえちゃんは、大きく息を吸い込むと、ゆっくり歩きながら歌い始めた。
ねーちゃん:
「カエルの歌が(次なっちゃん)、
聞こえてくるよ、
ゲロゲロゲロゲロクワックワックワッ」
わい:
「カエルの歌が(次じっちゃん)、
聞こえてくるよ、
ゲロゲロゲロゲロクワックワックワッ」
じっちゃん:
「カエルの歌が(ハッ)、
聞こえてくるよ(ヨッ)、
ゲロゲロゲロゲロクワックワックワッ(ホイ)」
……ええ感じや。続けて続けて。
「カエルの歌が、キャアーーーーーーーーーーー」
「カエルのギョエーーーーーーーーーーーって何やねん」
「な、なんや、なんや、どないしたねーちゃん」
ねえちゃんが、急に暴れ出した。
「む、むし、むし、顔に当たった、いあや、いあや」
「な、なんや、虫かいな。びっくりしたなー、もう」
「カナブンや、カナブン、肩についとる」
「いやあ、とって、とって、とって」
「ねーちゃん、危ない!危ない!」
「じっとせい、取ってやるから、ほら、取られへんぞ」
「ねーちゃん、ばーちゃんバリアや」
わいは両手を広げてバリアを張った。
ねーちゃんも、必死に両手を広げバリアを張ってじっとした。
じっちゃんが、肩についたカナブンを取り除く。
泣きそうな、ねえちゃんはそのまま固まっていた。
「よし、今日の特訓はここまでや。ほら帰るで」
じっちゃんが、わいとねえちゃんの手を取って引っ張った。
こうして、今日の特訓はあっけなく終わった。
ミッション失敗や。
ジャンジャン。
そうして、今きた道を引き返す。
横を見ると、じっちゃんの反対側、項垂れたねえちゃんがトボトボ歩いていた。しょんぼりしてる。
わいは、自分の手を見て考えた。
そして、じっちゃんの手を離すと、ねえちゃんの前に立って、ばあちゃんバリアを張ってやった。
「だいじょうぶやで」とつぶやく。
そしてそのまま、ねえちゃんの前を、先頭を歩いた。
バリアに力を込める。
不思議と、さっきまで、あんなに怖かった道が、なんも怖くなかった。
ばっちゃんが守ってくれてると思うと怖くなかった。
……ありがとう、ばっちゃん。
わいは、今日の特訓でちょっとだけパワーアップした気がした。
けど、家に帰るとやっぱり怖くて、この日はじっちゃんと一緒にお風呂に入った。
ばっちゃんバリアを一人の時に使うのは、まだまだ難しいようや。
よし、また明日から特訓やー!!
Fin
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