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だけど、じっちゃんは和室には入らず、隣の自分の部屋から竹刀を持って戻ってきた。
……?
そして、「ほら」と言って竹刀を渡される。
「刀があれば、武士は大丈夫や。さあ、行って来い」
「ええっっっっ!!」
「夏生、刀を帯刀したら武士は怖いもんなしじゃ。ほらほら、行って来い」
姉ちゃんが、プッと笑った。
わいは暗い和室を見て、ゴクリと唾を飲んだ。
「一体何が怖いんや?」
じっちゃんが聞いてくる。
「泥棒か?そんな奴は刀で返り討ちや」
「……」
「おばけか、ここはマンションやで、こんな所にでるかいや」
「ちゃう」
「ほな幽霊か?……幽霊とお化けは同じか?いや、ちゃうけど、まあいっしょや。どっちにしろ夏生のことは、天国のおばあちゃんが守ってくれとる。だから怖がらんで大丈夫や」
「おばあちゃん」
「そや、おばあちゃんがついとるんやで。いつも守ってくれとるんやで」
「おばあちゃん強いん?」
「強い強い、なんでもやっつけてくれるわ」
「……」
わいは、自分の周りにばっちゃんが、輝くバリアを張ったようなイメージを想像した。
「な、これで怖いもんないやろ」
「……宇宙人」
わいはポツリとつぶやいた。
「宇宙人?」
じっちゃんが、不思議そうに反芻する。
「怖い」
おねちゃんがガバッと体を起す。
「あーー、あんた昨日テレビでUFOスペシャル最後まで見てたんでしょ。だから見るなって言ったのに」
「だって、気になってしゃあないから」
「キャトルミューティレーションとか、グレイとか」
「わわわあわわ、もう言わんでいい。思い出すから」
「う、宇宙人か。むむむむ、それはなんと。うーん。ばあちゃんもえらいもんと戦わんといかんな。守れるやろか?」
しばらく、じっちゃんは、上を向いて考えこんでいた。
わいの頭の中では、
「ばっちゃんの輝くバリア VS 宇宙人たち」
の壮絶な戦いが繰り広げられた。
そして、なんとかバリアは耐えているものの、今にも破られそうで不安になる。
「ま、でも大丈夫や、そんな宇宙の大使がこんなところに来るわけないやろ」
と言って、じっちゃんは一人納得するとわいの背中を押した。
「さ、一人で行ってみ。武士になるためや」
「でも」
「よし、じっちゃんが、ここで見といてやる」
じっちゃんを見つめると、「うん」と力強くうなづき返された。
わいは和室に向けての廊下を一歩踏み出した。
「大丈夫や、じっちゃんが見とる」
振り返ると、じっちゃんがこっちを見て力強く頷く。
「大丈夫や」
わいは、覚悟を決めて、一歩、一歩、和室へと歩みを進めた。
「大丈夫やぞ。夏生」
「……うん」
竹刀を握り直したわいに、更にじっちゃんが声をかける
「ちゃんと見とる。もし、夏生が気づかんかったら大変やからな。もし、もしも、もしもやけど。宇宙人が出てきたらすぐ教えたる」
……えっ!
足が止まる。
「あっーーー、あかーーん!!後ろ後ろ、宇宙人やーーっ。危なーーーい!ってな。すぐ教えたるから。心配するな。な、絶対ちゃんと見てるから」
わいは一目散で走って戻った。
「余計怖いわ!!気づかんで行けるんやったらそっちの方がええ!!」
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