1年生その2「夏生、暗闇を怖がる」

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 だけど、じっちゃんは和室には入らず、隣の自分の部屋から竹刀を持って戻ってきた。  ……?  そして、「ほら」と言って竹刀を渡される。 「刀があれば、武士は大丈夫や。さあ、行って来い」 「ええっっっっ!!」 「夏生、刀を帯刀したら武士は怖いもんなしじゃ。ほらほら、行って来い」  姉ちゃんが、プッと笑った。  わいは暗い和室を見て、ゴクリと唾を飲んだ。 「一体何が怖いんや?」  じっちゃんが聞いてくる。 「泥棒か?そんな奴は刀で返り討ちや」 「……」 「おばけか、ここはマンションやで、こんな所にでるかいや」 「ちゃう」 「ほな幽霊か?……幽霊とお化けは同じか?いや、ちゃうけど、まあいっしょや。どっちにしろ夏生のことは、天国のおばあちゃんが守ってくれとる。だから怖がらんで大丈夫や」 「おばあちゃん」 「そや、おばあちゃんがついとるんやで。いつも守ってくれとるんやで」 「おばあちゃん強いん?」 「強い強い、なんでもやっつけてくれるわ」 「……」  わいは、自分の周りにばっちゃんが、輝くバリアを張ったようなイメージを想像した。 「な、これで怖いもんないやろ」 「……宇宙人」  わいはポツリとつぶやいた。 「宇宙人?」  じっちゃんが、不思議そうに反芻する。 「怖い」  おねちゃんがガバッと体を起す。 「あーー、あんた昨日テレビでUFOスペシャル最後まで見てたんでしょ。だから見るなって言ったのに」 「だって、気になってしゃあないから」 「キャトルミューティレーションとか、グレイとか」 「わわわあわわ、もう言わんでいい。思い出すから」 「う、宇宙人か。むむむむ、それはなんと。うーん。ばあちゃんもえらいもんと戦わんといかんな。守れるやろか?」  しばらく、じっちゃんは、上を向いて考えこんでいた。  わいの頭の中では、 「ばっちゃんの輝くバリア VS 宇宙人たち」  の壮絶な戦いが繰り広げられた。  そして、なんとかバリアは耐えているものの、今にも破られそうで不安になる。 「ま、でも大丈夫や、そんな宇宙の大使がこんなところに来るわけないやろ」 と言って、じっちゃんは一人納得するとわいの背中を押した。 「さ、一人で行ってみ。武士になるためや」 「でも」 「よし、じっちゃんが、ここで見といてやる」 じっちゃんを見つめると、「うん」と力強くうなづき返された。 わいは和室に向けての廊下を一歩踏み出した。 「大丈夫や、じっちゃんが見とる」 振り返ると、じっちゃんがこっちを見て力強く頷く。 「大丈夫や」  わいは、覚悟を決めて、一歩、一歩、和室へと歩みを進めた。 「大丈夫やぞ。夏生」 「……うん」  竹刀を握り直したわいに、更にじっちゃんが声をかける 「ちゃんと見とる。もし、夏生が気づかんかったら大変やからな。もし、もしも、もしもやけど。宇宙人が出てきたらすぐ教えたる」  ……えっ!  足が止まる。 「あっーーー、あかーーん!!後ろ後ろ、宇宙人やーーっ。危なーーーい!ってな。すぐ教えたるから。心配するな。な、絶対ちゃんと見てるから」  わいは一目散で走って戻った。 「余計怖いわ!!気づかんで行けるんやったらそっちの方がええ!!」
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