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2幕1場:ザ・スズナリ外
今日も昼間から時間を持て余し、悟はだらだらと劇場を回っていた。
観劇まで至らないのは、自分が立てない場所にいる人の存在を認識したくないからだ。でも作品の情報は確認するのだから、どうも矛盾している。
白黒の看板を一瞥し、道脇のガードレール前に立つ。惰性的にスマホを確認するが、めでたい知らせはない。
続いてSNSを見る。
だがアプリを開いた瞬間に見た演劇情報メディアの投稿に、心臓が止まった気がした。
『公演日程と新キャスト……』
公演情報を知らせる文章の下、出演者をマークするタグの中に、見まがうはずもない吉田佑真の名前があった。
操られるように記事を開く。
会場は千人以上を収容する都心の大劇場で上演時期は五月。
となると、稽古開始はおそらく来月だ。
佑真はこれから忙しくなる。
(だから「今のうち」……)
啞然とした。
あいつは早くも限界を見たのだと思った。暇で、おとなしく、不安定に足掻いているのだと。
なのに。
「……っ!」
怒りのまま腕を振り下ろす。
下を向き、何度か大きく息をして、スマホの電源を切った。
(……無理だ)
悔しさに負けて投稿に非表示設定をしなかっただけ認めてもらえないかと、願った。
ちゃんとしてるだろ、悔しい知らせとも向き合っているだろ、と。
でも。本当は向き合いたくないし、逆恨みや嫌がらせをしてはいけない道徳に従うのもしんどい。
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