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(何やってんだ、俺……)
頭上にざわめきが聞こえた。
階段の先、劇場の扉が開いている。
ぞろぞろと出てくる人を見ていると、一人の少年と目が合った。
怒りがまた沸騰した。
「……あなたは」
階段下まで降りた佑真がじっと悟を見る。
「野中悟、だ。一応あんたと同業だよ。どうせ知らないだろうけど」
「存じてます」
「へえ。何で?」
「……千晶さんに聞いて」
悟の拳が固まった。
実績や技術じゃなく、その程度のことでしか認知されない。空しくて、惨めだ。
周りを人が通り、去る。
ここも小さな劇場だ。他の来場者は皆、数分のうちに消えた。その数分の間、二人のどちらも言葉を発せず、視線をそらさなかった。
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