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沈黙を破ったのは悟だった。
「……満足かよ」
佑真は返事をしない。
声が大きくなる。
「いいよな。安定に次の仕事も決まって。名前も知られて。ファンもいて仲良くできて。あんたは満足だろうな!」
最後は怒鳴り声になった。
「なのに余裕みたいに観劇続けて。何でそう必死に――」
「必死にもなります。俺なんかまだまだですし、本気で続けたいと思うから」
やっと出た彼の言葉に、悟の中で何かが切れた。
本気で続けたい? 自分なんてまだまだ?
ふざけるな。
結果を出しておいて。
背中を追う隙すら与えない勢いでいて。
「……だろうな。だってあんたも新米だ。そのくせキャパ千人超えの劇場で人気作の出演もスイスイ決まる。でもその情報解禁すら観劇途中だから見ない。とんだ贅沢だ」
道のガードレールを殴り、ビリ、と拳に痺れが走る。
「滑稽だろ。俺は稽古もオーディションもなく三ヶ月も暇にして毎日下北をぶらぶらして、時間無駄にしてバカみたいに年取って。そんでろくに知らないあんたみたいなやつに――」
いや。
中途半端に知っている相手だからこそだ。これくらい、この程度、この分野でこの土俵だと思い込んでいたから、急にそこから抜け出したように見えるのが許せない。
解禁まで本人は何も言えない。思わせぶりなことさえできない。だからこっちは突然の知らせに見る相手の飛躍に愕然とし、それまでの秘密にしていたような態度に苛立つのだ。
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