2幕1場:ザ・スズナリ外

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(……少しは落ち込めよ)  相手を傷つけるはずが逆に自分が打ちのめされて、余計に惨めになる。  やがて、また佑真が口を開いた。 「『基本の観劇マナーさえ守れないやつに観客を感動させる芝居などできない』」 「は?」  そっと彼を見上げる。 「事務所の先輩に言われた言葉です」  意味がわからない。 「事件起こした言い訳か。そんなの役者と客を混ぜてるだろ」 「俺も始めはそう思いました。でも今は別のように考えるんです。根っこの気持ちは演じる側と同じだって」  穏やかな声が降ってくる。 「だから観に来る人はマナー守って全員が楽しめる環境を作る。そしてこっちは何があっても続けたいと思うし、続けられる」  ?  苛立ちに口が開いたが、佑真は続ける。 「もちろん、技術、運、努力もあります。俺もその先輩や矢野さんにも及びませんし、そこは絶対必要です。でも何よりまずは……この気持ちがあるから演じ続けたいと思う。周りに何を言われようと、観客やライバルにどう反応されても、されなくても。これくらい、強く、当然のように持ち合わせてないと、役者なんてとても務まらない。そういう意味の言葉じゃないかって」
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