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「……!」
感動、というものを初めて知った気がした。
全部が体と心を揺さぶる。
物語の面白さ、それを目一杯引き出すセンスある演出技法、作品が今目の前で一度きりで展開している緊張感、それを限られた観客だけで共有している高揚……
俯瞰と横目で見た観客は皆残らず見入っている。全員が楽しんでいる。
そして俳優たちも皆、心から、本気で、好きで演じている。
伝わった。
押しつけられるわけでも、こっちから理解しに行くまでもなく、伝わった。
その様がかっこいいと思った。
震えが止まらない。
興奮で手が痺れ、痛いくらい心臓が存在と思いを主張する。
あんな風に、自分も観る人から楽しむ反応を引き出せたら。
(ああ……)
やっと、はっきり言葉になった。
(俺も、また舞台に立ちたい)
カーテンコールの拍手に囲まれた時、悟は自分の感情に気づいた。
名残惜しさ。
続けたい思い。
役者の仕事が好きだという気持ち。
佑真や矢野弘秋、他の俳優に嫉妬した理由がわかった。
どうしてお前ばかり順調に進められる。
少しは手加減してくれていいだろ。譲ってくれてもいいだろ。
俺だって続けたいのに。
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