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正直、自分を役者と名乗れる身と思えない。
事務所に所属してはいるも、三ヶ月前から活動ほぼ停止中だ。今日だってアルバイトの予定しか入っていない。生活はきつめだ。
デビューして三年たつが、未だにアンサンブル、端役しか任されない。オーディションはこの前で二十連敗、直接演出家に声がかかった経験もない。ファンがいるとは言い難く同業にもそう知られてはいない。その成長のなさに付き合いきれず、マネージャーも放置ぎみだ。
悟は女性が見つめていたポスターを確認した。
(本多劇場か)
星取り表の最後の日をじっと見る。
千秋楽は九日後。
悟の誕生日だった。二十四歳になる。そろそろ「いい年」の節目だ。
透明のパネルにうっすら自分の姿が映る。昔から自負できる整った容姿だし、髪型・服装も俳優業と下北に恥じない洒脱なものを意識している。
だが曇った表情で台無しだ。
お前はどうしたいのだとなじられている気がする。
でも仕方ないのは仕方ない。だって、自分には力がない。
悟は彼女が消えた曲がり角をじっと見つめた。
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