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1幕2場:本多劇場外
由緒ある本多劇場。ここ下北沢が演劇の街たる所以とも言えるだろう。舞台俳優ならきっと一度はここに立ちたいと思う。悟だってそうだ。
でも無理な話だ。
道路から劇場前のパティオ、そしてそこから入口へ。二つの階段が届かない願いの象徴に思える。
(……あ)
道の先に空色のスカーフが見えた。
さっきの女性が劇場への道を進んでいる。
悟はドキッとして一瞬足を止めた。
追い越さないペースを保って道路の反対側、斜め後ろを歩く。
(これ、また声かけていい状況……?)
迷っていると、彼女がある声に反応した。
「千晶さん」
悟も彼女につられて声がしたほうを見た。
視線の先、道の向かいに一人の少年がいて話しかけている。
「え、佑真くん?」
千晶さんと呼ばれた彼女も自然に返事をして近づく。
会話が始まったが、悟には聞こえない。
(……「佑真」?)
目を凝らして様子を伺った。彼女がそいつを全く警戒していないのは明らかだ。
面白くない。
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