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颯爽と入口隣のテーブルを確保した同業を前に強烈な逃避思考が湧いた。
見られたくない。
俳優の仕事がなくバイトで生活を繋ぐ必死で情けない姿なんて。
でも彼のことは気になる。仕事はどうなのか。さっきのことを覚えているのか。
佑真は席に着くと鞄から一冊のメモ帳を出して開いた。
注文を受けに行くついでに見る。字がびっしりのページの頭には下北の別の劇場と演目が大きく書かれていた。鑑賞ノートらしい。
どう書けと教わっているのだろう。
彼は有名な俳優養成所の卒業生だ。淀みない活動の理由はそれだろうか。
ちくりと胸が痛んだ。
(俺だって……)
それくらいの余裕やサポートがあって、最初から選ばれるようになれてたら。
あんなこともなかったかもしれない。
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