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「そうですか、梨ヶ瀬さんのご期待に添えられなくてすみません」
楽しそうな梨ヶ瀬さんを見ると、出てきてしまうのは憎まれ口ばかり。上司である梨ヶ瀬さんに自分の印象を悪く見せてしまっている私もどうかしてる。
それなのに、どうしても彼に好かれたいとは思えなくて……
「あはは、面白いくらい感情のこもっていない言葉だね。横井さんのそういうところ本当に飽きないなあ」
私は今すぐ飽きて欲しいですけどね、貴方に気に入られるなんて大迷惑です。そうこの人にハッキリと言えたらいいのに。
でもそんな訳にはいかないから。
「私降りなきゃいけないんですってば、そこどいてくれます?」
いまだ私を囲むように両腕を壁についたままの梨ヶ瀬さんを睨みつける。ここで降ろしてもらえなきゃ、私だって困るのよ。
「今降りたらあの男ももれなく君について来るけど、横井さんはそれでもいいの?」
梨ヶ瀬さんのその言葉で緑のパーカーの男性も、まだこの車両に残ったままなのだと気が付いた。やはり彼はチラリチラリと私達の様子を窺っている。
「何故そう言い切れるんです? 少なくとも今まであんな男性が私の後ろをついて来た事なんて……」
「……本当に分からない? もし気になる女性にちょっかい出してる男がいきなり現れたら、普通は焦ると思わない?」
……梨ヶ瀬さんの言葉に一瞬呆けてしまった。
えっと、なに? それってつまり……今、貴方が余計な事をしてくれちゃってるからって事ですよね!?
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