曇らない、その微笑

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「どうしてそんな余計な事をするんですか! 梨ヶ瀬(なしがせ)さんがいなきゃ、あの人を刺激することも無かったかもしれないんですよね?」  なんの気まぐれで私にちょっかいを出しているのか知らないけれど、お昼の鷹尾(たかお)さんの件の事も含めて本当にいい迷惑だわ。私がそうやって梨ヶ瀬さんに詰め寄れば、彼は「あはは」と楽しそうに笑う。   「でも、ほらね? 危険な芽は早いうちに摘んでおきたいじゃないか、横井(よこい)さんのためにも。……俺の為にも、ね?」 「はあ? 何を言って……」  私の為にはまだ分かるけど、何が梨ヶ瀬さんのためになるのか分からない。けれど聞き返そうとした瞬間に、梨ヶ瀬さんが私の手を掴んだと思ったらそのまま降車口へ連れて行かれて…… 「ちょっと待って、どうして梨ヶ瀬さんが私の降りる駅を知ってるんです?」 「え? あ、そうなんだ。奇遇だね、俺もここが最寄り駅なんだよ」  嘘でしょう? 関わりたくないと思っている相手なのに、どんどん物理的距離だけが近付いている気がする。必要ないはずなのに、今だ梨ヶ瀬さんに手は掴まれたまま……  そんな事は気する様子も見せず彼はズンズンと歩いて改札まで来てやっとその手を離してくれた。 「それじゃ、お疲れ様です」  上司に対しての挨拶だけをして、アパートへとさっさと帰ろうと歩き出すと。 「一人で帰るの? さっきの男も、しっかりとこの駅で降りてたのに」  ……なんですって?
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