曇らない、その微笑

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 ゆっくりと後ろを振り向いて少し後ろまで確認すると、確かに建物に半分隠れたような状態で緑のパーカーの男性が見えた。  ここまでついて来ているところを見ると、本当にターゲットは私なのかもしれない。いったいなぜ私なんかを……? 「ね、そこにいるでしょう? 横井(よこい)さん、今日は俺と帰った方が安全だと思わない?」  なんてさも親切そうに言いますけどね、こうなった一番の原因って何だと思ってます? 「だいたい、梨ヶ瀬(なしがせ)さんが余計な事ばかりするからっ! それに……今まで何もしてこなかったから、きっと今日も大丈夫ですよ!」  いつからこんな風に見られていたのかは知らない、だけど勝手に憶病な男性に違いないと決めつけていた。そんな私の手首を梨ヶ瀬さんは強く掴み引っ張ると顔を近づけて…… 「ねえ、麗奈(れな)は本当にそんな甘いこと考えてんの? 俺は今までよく何も起こらなかったと考えるべきところだと思うけど?」  顔が近すぎるし、なんて怖い事を言うのよ! そう言い返したいのに、彼の表情は決して冗談を言っているようには見えない。もし本当に今日一人で帰れば、何か起きないとは言い切れない……?  それを想像すると背筋にゾクッと冷たい感触を感じ、額に嫌な汗が浮かんできてしまう。さすがに、今日一人で帰る勇気は萎んでしまったかもしれない。
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