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「迷惑をかけたくない、麗奈はそう思っていても梨ヶ瀬さんが同じ考えとは限らないだろ? むしろ俺を頼るくらいなら自分を頼れって満面の笑顔で言ってきそうだけどな」
「それは……それで怖いんですけどね」
本当に彼ならば笑顔でそう言ってきそうだ、その魅力的な笑みを素直に喜べる気はしないけれど。普段は穏和な態度で本性をうまく隠している梨ヶ瀬さんだが、その分たまに見せる本来の彼は意外と強引で迫力がある。それは伊藤さんもなんとなく気付いているようで……
「俺だって今回のことをいちいち報告するのは気が進まない、結局睨まれるのは俺なんだからな。争う気はないって言ってるのに、あの人は全然信じてないし」
「どういうことです? 争うって、梨ヶ瀬さんとなにか勝負でもしてるんですか?」
ただ疑問を口にしただけなのに、伊藤さんから可哀想なものでも見るような目で見られた。そもそも私を庇ってくれている伊藤さんが何故に梨ヶ瀬さんに睨まれるのかも意味不明なんだけど。
「これ以上言っても無駄だってことだけはよーく分かった。とにかく今回のことは麗奈から梨ヶ瀬さんに直接相談すること、それだけは守れ」
「うう、やっぱりそうなるんですね……」
何が言っても無駄なのか説明もないまま、伊藤さんはそれだけを私に約束させるとさっさとカラオケのリモコンを操作して曲を入れ始めた。どうやらしっかり歌うつもりらしい。
その後二時間、意外にも伊藤さんの歌がやたら上手で何曲もリクエストしたことは梨ヶ瀬さんに秘密にしておくようにと言われたのだが。
その後、近くまで送ってくれた伊藤さんと別れなんとなくソワソワした気持ちで部屋の扉を開けたのだった。
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