消えない、その過去

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「どうして当然のように隣に座るんです? そんな大きなソファーじゃないって分かってるのに」 「座りたいからに決まってるでしょ、いちいち聞かなきゃ麗奈(れな)は分からないの?」  いいえ、分からないのではなく分かりたくないんです。そうハッキリと言えたら少しはスッキリするのだろうけれど。余計な一言を口にすれば、熱々のコーヒーカップを持った状態で何をされるか分からないのでとりあえず黙っておく。  身体がくっつく様にピタリと真横に座られて、正直かなり鬱陶しくはあるけれど。 「ベタベタされるの嫌いだとか言ってませんでしたっけ、職場の女の子たちに」 「そうだね、何とも思ってない子にベタベタされるのは迷惑だよね」  つまり、そうではない子にベタベタするのはOKだとでも? そこに私の意志がちゃんと汲み取られているとは到底思えないのだけれど。  言っても無駄だと分かっているのに、どうしてこの人はいつもこうなのか。普段は飄々としていて掴みどころが無さそうに見えるのに、時々見せる男の顔は野生の獣のようで。 「ああ、でも風呂上がりの君の匂いは流石にヤバいかも。ちょっと理性に自信がなくなりそう」 「本当にセクハラで訴えてもいいですか?」  勝手に家に押しかけてきて部屋に上がり込んでおいて、何が「理性に自信がない」だ。私を心配してきてくれてるのでなければ、梨ヶ瀬(なしがせ)さんなんてとっくに追い出してる。
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