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やっぱり狡いんだと思う、梨ヶ瀬さんは。こういう時だけ本気の熱を灯した視線で私を見つめるから。少年のように拗ねたような顔を見せて、私を冷静でいられなくしてしまう。
梨ヶ瀬さんが私を追い詰めるため必死なように、私も貴方から逃げることで精一杯なのに。きっと彼は私を逃がす気なんてサラサラない、それどころか……
「ねえ、早く俺のものになってよ。今すぐ俺に麗奈を守る権利を頂戴?」
「い、今はそんな話をしている場合じゃなくてっ! その……元カレの事について話しに来たんですよね、梨ヶ瀬さんは」
私があからさまに話題を変えようとしているのが見え見えで、梨ヶ瀬さんは少し不満そうな顔をしている。それでもこの話をしない事には何も解決しない事を分かっているためか、しぶしぶ彼も元カレの話を聞くために少し私から離れた。
「……それで、元カレとはどれくらい付き合ったの? どんなところに惹かれて、そいつに何度好きだと言った?」
「前半はともかく、後半の部分は言う必要ありますか? むしろ聞いてて何が楽しいのかが分からないんですけど」
元カレにそんなに「好きだ」と伝えた記憶はないが、ゼロというわけでもない。ただそんな事まで知っておきたいかと聞かれれば、私はそうは思わないのだけど。
案の定、梨ヶ瀬さんは眩しいほどの笑顔で……
「楽しいわけないでしょ。ヤキモチ妬いてるのくらい気付くんじゃなかな、普通は」
「あー、そうですね。本当に、面倒くさい人……」
何でこう遠回しなんだか。これが駆け引きではないというのなら何だというのか、私にはもうよく分からない。
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