曇らない、その微笑

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「それにしてもよく分かりましたね、あの男性が私の事を見ているだなんて。私にはそんな風に狙われる要素なんて無いと思うんですけど……」  アパートまでの道のりがそんなに遠いわけではないけれど、わざわざ送ってくれてる梨ヶ瀬(なしがせ)さんと無言で歩くのも申し訳なくてなんとなく気になっていたことを聞いてみる。  今日この会社に赴任してきたばかりの梨ヶ瀬さんが、どうしてそんな事に気付くことが出来たのか。 「横井(よこい)さんが狙われる要素云々に関してはまた今度にして、あの男の視線に気付くのはそんなに難しい事ではなかったよ」 「どうしてです?」  だって私は梨ヶ瀬さんに言われるまで全く気が付いてもいなかった、それくらいその男性とは距離も離れていたのだから。  今日梨ヶ瀬さんにそう知らされなければこれからも気付かなかったかもしれない。 「僕が横井さんをこの電車で見つけたのは本当にたまたまだけど、あの男はきっとそうじゃない。横井さんに気付いて僕が近付いた時、彼は過剰に反応していたから」 「それって、どんな?」  その事にも私はちっとも気付かなかった、予想外の梨ヶ瀬さんの登場で頭がいっぱいで。 「まあ嫉妬なんだろうけど、身体を震わせ酷く僕らを睨んでいたからね。だから今日はきっと最後までついて来るんだろうなって」  ……つまり今の状況は、やっぱり梨ヶ瀬さんの所為だという事ですね?
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