曇らない、その微笑

10/15
前へ
/222ページ
次へ
「そんな睨まないでくれる? 横井(よこい)さんの言いたいことは分かるけど、こうして君を送り届けてるんだから」  確かにそれはそうだけど、今一つ梨ヶ瀬(なしがせ)さんの事は信用できない気がする。私の中の何かが簡単に彼を信じてしまわないで、と私に伝えてくるのよ。 「それが本当に裏の無い梨ヶ瀬さんの行動ならば良いんですけどね、どうしても裏があるような気がして」 「信用無いなあ、これでも君の上司なのに」  わざとらしい、自分で信用されないような言動をとっているくせに。いくら私だってそれに気づかないほど鈍感じゃない、ただこの人が何を考えてそうしているのかが分からないだけ。  夜道でもこの辺りは明るい、人口の光に照らされてもこの人はとても綺麗な顔をしてる。正直隣を歩くのは少し気が引ける、せめて主任のように美人ならば…… 「言ってる事と、とってる態度や行動がバラバラなんですよね。梨ヶ瀬さんは」 「……そうかな?」  ほら、そうやって軽く笑って誤魔化すけれど否定はしない。梨ヶ瀬さんのそういうところが私はどうしても気に入らないの。 「そうですね。ああ、そこにあるのが私のアパートです。もうここで結構ですので、梨ヶ瀬さんも気を付けて帰ってください。送っていただき、ありがとうございました」  梨ヶ瀬さんに何か言わせる隙も与えないように一気に話して、さっさと彼から離れようとする。だけどすぐに私の手首が強い力で掴まれて…… 「部屋の前まできちんと送らせて? 麗奈(れな)、お願い」  ……ここでその言葉を使うのは、狡いでしょ。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1659人が本棚に入れています
本棚に追加