曇らない、その微笑

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「もう勝手にしてください!」  さすがに上司からお願いと言われては断る事も出来ず、私は前だけを向いて少しでも早く家に帰ろうと足を進める。そんな私に気を悪くすることも無く、梨ヶ瀬(なしがせ)さんは笑顔のままで私の隣を歩いてる。 「まあ、横井(よこい)さんが駄目だと言っても俺は最初からそのつもりだけどね」  つまり私を口で丸め込むことくらい簡単だという事なんでしょうね、確かに梨ヶ瀬さんならそうなのかもしれないけれど。  ……やっぱり私は、この人の事が凄く苦手だわ。  アパートについて二階への階段を上れば、後ろから梨ヶ瀬さんもしっかりとついて来る。この人は口にしたことは絶対に実行するタイプなんでしょうね。  一番奥の部屋の扉の前、自分の鞄から鍵を出したところで梨ヶ瀬さんを振り返る。 「もう部屋まで着きましたから、帰ってもらって大丈夫ですよ」  心の中で早く帰ってくれと願いながら、なるべく失礼にならないように頭を下げてみせる。これ以上しつこくされてしまうと、あの男性と梨ヶ瀬さんのどっちがストーカーだか分からなくなりそうだし。  それなのに、この人は…… 「駄目、ちゃんと中まで入って鍵をかけて? そうしてくれなきゃ帰ってあげない」  普通は部下に対してそんな脅し方ってしないと思うんですけど?  
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