必要ない、その心配

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「手っ取り早いのは住所を変える事じゃないかな? 通勤時間や通勤電車を変えるだけでも、あのストーカー男の一時的な目くらましにはなると思う」 「今のアパートから引っ越せって事ですか?」  あのアパートは何件も不動産屋を回ってやっと決めたお気に入りの部屋なのに。梨ヶ瀬(なしがせ)さんの言葉にズーンと落ち込みたい気持ちになった。  こちらの様子をチラリチラリと窺っているストーカー男にムカムカしてくる。 「今すぐあの人を警察に突き出す、それじゃ駄目ですか?」 「横井(よこい)さんらしい発想だけど、絶対やめてね? 何かあった時に俺の方がどうにかなる」  自分ではいい方法かと思ったのだけど、梨ヶ瀬さんは今までになくもの凄い真顔だった。この人こんな顔も出来るんだと感心してしまったくらい。  だけど…… 「つまり……どうなるんですか、梨ヶ瀬さんは?」  私に何かあったらと言う事なんだろうけれど、それで梨ヶ瀬さんがどうにかなる理由も分からない。なんとなく不思議に思って聞いただけだった。 「さあ?」 「さあって、何ですそれ」  ふざけているのかと思って、ちょっとイラついた。このままヒールでその高そうな革靴を踏みつけてやろうか? 「だって分からないよ、こんな風に誰かを守ろうなんて思ったのは初めてだから」
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