崩さない、その余裕

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横井(よこい)さんから見ると俺は、彼女がいるのに自分の部屋に女の子を連れ込むような男なわけ? 君って他人の事には鋭いのに、自分の事には物凄く鈍感なんだね」  いつもなら笑顔でのチクチクとした嫌味も、今は何となく言い返すことが出来ない雰囲気で……どうやら梨ヶ瀬(なしがせ)さんは不機嫌の度合いによっては、本性を隠さなかったりするのかもしれない。  なんてことを考えて、ちょっとだけ嬉しいような気がして頬を緩めてしまったのが失敗だった。いつの間にか頬を指先で摘ままれていて…… 「ちょっ……! 痛い痛いです、急に何をするんですか?」 「うん。横井さんが俺の話で大事なところには気が付かず、別の事で一人楽しんでるみたいだからちょっとイラついてね?」  そう言ってキラキラした笑顔で微笑んでいる梨ヶ瀬さんには、もういつもの余裕が戻ってる。少し拗ねたような表情が見れたのは気のせいだったのかもしれないと思うほど、綺麗さっぱり彼は切り替えてしまってた。  やっぱりこの人はちょっとしたことでは、この余裕を崩したりはしてくれないらしい。 「……せっかく意外な一面が見れたと思ったのに」 「横井さんならいくらでも見る方法があるよ、わざわざ教えてあげる気はないけどね」  ……何よ、それ。私に背を向けて扉を開けて部屋の中へと入っていく梨ヶ瀬さん。何となく意味深な事を言われたような気がしたけど、今は深く考えず彼の後に続いて私も部屋へと入らせてもらった。
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