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「あれ、桃ちゃんだ。こんばんは」
暗くなった公園で、ブランコに座ったままつま先を見ていると、聞きなれた声と共に隣のブランコに人が座る気配がした。
「……碧斗にぃ、なんで?」
「仕事帰り。公園に人影が見えたから、もしかしてと思って」
碧斗にぃは近所に住む男の人で、私たちが幼い頃からよく遊んでもらっている。
碧斗にぃは今年で30歳になるからもう「にぃ」なんて年齢ではないけれど、姉もそう呼んでいたし、私が幼い頃はまだ大学生だったから呼び方がそのままなのだ。
「桃ちゃんこそどうしたの? こんな時間に出歩いちゃダメですよー」
「……もう子供じゃないし」
「ごめんごめん、もう中学生だもんね」
頬をふくらませていじけた私に、碧斗にぃは「早いなぁ」と笑いながら言った。
「だけど最近は危ない人も多いから、早く帰った方がいいよ」
「うん……」
「なんかあった?」
碧斗にぃが俯く私の顔を覗き込む。澄んだ瞳に公園のほの暗い灯りが反射していた。
「……私が生まれた日のこと、お母さん覚えてないんだって」
「あー、なるほどね」
碧斗にぃから目を逸らして小さく呟いた私を見て、彼は納得したように笑う。
「俺は覚えてるよ。君が生まれた日のこと」
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