君の生まれた日

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「え?」  以外な言葉に驚いて碧斗にぃを見ると、彼は「うん、よく覚えてる」ともう一度言ってふっと笑った。 「俺にとっても特別で、印象深い1日だったからね……その日は朝から雲ひとつない青空が広がっていて、庭の桃の花が満開に咲いてた」  彼は懐かしそうに目を閉じて、優しい声で話し始めた。 「桃ちゃんが生まれたのはそんな穏やかな1日が始まって少したった頃、午前中だった。だけど……」  碧斗にぃがそこで言葉を切った時、突然強い風が吹く。彼はやはり目を閉じたまま、風が彼の黒い髪を撫でていくのを、ただただ感じているようだった。 「……だけど?」  風が収まるのを待って、私は先を促す。 「突然土砂降りの雨が降ってきて、強い風も吹き荒れるようになった。雷まで鳴っていて、まるで嵐みたいだったよ。時間的には、桃ちゃんが生まれてすぐくらいかな」  まるで私が生まれたせいで嵐が来たみたいだ。私は母だけでなく、世界からも拒絶される存在だったようにさえ思えてくる。 「でもね、その日の夕方になったら雨も風も雷も、全部ピタッと止んで、何も無かったかのように静かになった……まぁ朝には満開だった桃の花はほとんど散ってしまったけれど」  それから碧斗にぃはゆっくりと目を開いた。 「本当に、あの酷い嵐を全部無かったことにしたみたいだった。月も星も、綺麗に見えてたよ……ちょうど今みたいにね」  私は碧斗にぃの視線を追うように空を見上げ、それからまた碧斗にぃを見た。  開いた両膝の間で組んだ手には、月の光を鈍く反射させるリングが光っている。 「つまりね、桃ちゃんはそんな不思議な日に生まれた素敵な女の子ってことかな。あんまり言葉がまとまらないけど」  碧斗にぃは私の視線に気づいてか、立ち上がると「さ、帰ろう」と柔らかく微笑んだ。 「俺も奥さんと、子供が待ってるんだ」
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