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鏡の少女
「奏多くん、奏多くん。ここ教えて〜。」
「あー、ここは公式使って…」
「あ、奏多くん!私も〜」
私も私もというように女子がわんさか集まってくる。確かに俺はそんなに頭が悪くない、といってもクラスではトップだけど、なんで俺だけに聞くんだ?女子のトップにでも聞けばいいのに。
「あー、えっとこれはこうやって」
どんどん質問されたことをさばいていく。まるで流れ作業のように。教え終わった女子が残念そうな顔をしているのはなんなんだろうか。
「やっと終わった…」
「いいなー、奏多。俺もあれくらいモテてみたいんだけど。」
「は?モテてるんじゃなくて、わからないところ聞いてるだけじゃん。」
「いやいや。あいつらの目獲物でも狙ってるかのような目だぜ?そのうち奏多やられるんじゃないかって心配で心配で(笑)」
はぁ?何言ってんだこいつ。俺がモテるとかないだろ。俺には姉が3人いるから、女子がどんな思考を持っているかの恐怖を知っている。女子のだいたいは『好きだから近づく』のではなく、『好きにならせるために近づく』が正しい。姉たちの姿を見てそう思った。だから、俺がモテているとかはない。むしろ怖い。
あ、でもひとつ思ったこと。さっきの女子達の声甲高かったな。うるさいくらいに。鏡の中の子はすごく澄んだ声をしていたのに。あの子の声がまた聞きたい。
今日また放課後に鏡の前に行ったら、声が聞こえるだろうか。今度は顔とか見えると嬉しいな…。
俺は初めてというほど、見えもしないひとりの女の子に興味を持っていた。そうして今日の放課後、俺はわざと教室で一人残りその時を待った。あの階段を下りて大きな鏡の前に立つ。そっと鏡に手を当てて、
「こ、こんにちは。この前の放課後、ここであなたの声を聞いたものです。…いますか?」
シーーン
なんの音もしない。声なんか聞こえるわけがない。俺は何をしてるんだろう。
「やっぱり気のせいだっただけか…。あの日は疲れてたんだろうな。」
そう独り言を呟き、踵を返して踊り場から階段を下りようとすると、
「まっ…て___…」
「‼︎」
声が…聞こえた。あの澄んだ綺麗な声。
「やっぱり、いるのか?鏡の中に___…」
「違うよ。"ココ"にいるよ。」
その声は俺の背後から聞こえ、俺は思わず「わっ!」と言いながら後ろに飛んでしまった。そこに立っていたのは、俺と同じ中学生くらいで、違う制服を着ている女の子。髪の毛は腰くらいまで伸びていて、サラサラしている。手を後ろに組んで、大きい綺麗な目で俺の顔を覗き込む。
「だ、だれ?」
聞きたかったはずの声を持った女の子。どこか緊張感があって、声が上手く出ない。
「…なこ」
「えっ?」
「ヒナコ___…」
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