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文学少女
キーンコーンカーンコーン
昼休み。俺は友達と話していた。俺の机を挟んで前後に座りながら。
「なぁ。あの踊り場の大きな鏡ってさ、なんか迷信とかあったっけ?」
唐突に聞いてみた。俺が知らない情報、七不思議とかそういうのでもなんでもよかった。
「はぁ?別に聞いたことねーよ?記念品なんだろ、そんくらいかな。」
記念品っていうか、重要記念物な。かなり違うぞ。
まぁ、そりゃ特に情報なんてないよな。秘密ばかりが尾を引く鏡だ。そんな情報がほいほい出回るわけ…
「東條くん。鏡のこと気になるの?」
真横からいきなり声をかけられた。
「さ、桜井…」
同じクラスの桜井綾(さくらいあや)。あまり目立つ方ではない、というよりクラスの中ではふしぎちゃんな感じ?丸いメガネに両サイド三つ編み。典型的な文学少女な人。今までに話したことは数回程度。それも授業のグループワークとか、ペアになった時とか。
「気になるの?」
グイッと前に来て、もう一度聞いてきた。
「あ、うん。ちょっと興味があって…」
「私、少しならわかるよ。」
そう言う桜井は、まるで無表情でただ淡々と事実だけを伝えるかのように見えた。逆にその表情が本当のことしか言っていないと俺に思わせたから、俺は思わず
「ほ、ほんと?ちょっと知りたいことがあるんだけど…」
と返してしまった。
「今日、放課後、図書室にいるね。」
それだけ言って桜井は立ち去っていった。
「おいおい、奏多。桜井まで落としにかかってんのかよ」
目の前で友達がふざけて言う。
「いや、絶対そういうのじゃないから。」
うん。ほんとに。これはなんの意図もない、ただ他人に自分の持ってる情報を伝えたいだけ。そんな感じだった。
放課後___
俺は図書室に向かった。
窓際に桜井が座っている。小さな本を読んで。やっぱりこれだけ見たら文学少女だわ。
「桜井、お待たせ。」
桜井は驚きもせずにこちらを向く。
「東條くん。こちらこそ時間取ってごめんね。私が話したいばかりに…」
あ、やっぱり話したかったんだ。
「いいよ。俺も聞きたかったし。」
そんなやりとりをして少し場が和んできた。ような気がする。
「あのね、私があの鏡について知ってること。」
「あ、うん…。」
突然話題に入ったから少し驚いた。テンポがよく読めないな。
「あの鏡には世界を遮る力があるんだって。」
「世界を、遮る?」
「だから、あの鏡を境目にして、二つの世界が隣り合わせになってるの。」
「‼︎」
桜井の話がヒナコが言っていたことと重なる。
『この向こう側には、もう一つ世界があるの。普通は繋がらない世界』
「この世界はね、一般的にこう分けられてる。」
俺は目の前にいる桜井は実は偽物じゃないか、ヒナコが桜井に入れ知恵をしたんじゃないか、今変な空間にいるんじゃないか。そんなことばかりを考えていて、次の言葉を聞く準備ができていなかった。
「『生の世界』と『死の世界』」
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