生と死

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生と死

 「『生の世界』と『死の世界』?」 俺は聞き返してしまった。  「えっ、えっ?いやいや、どうした桜井!真面目な顔で言う話じゃないぞ。なんか厨二病入っちゃってるっていうか…」 少しおどけてみた俺の対応に、全く変化を見せない桜井の表情。  「待って待って。ちょ…、俺変な話嫌いなんだよ…。桜井はそういうの言う人じゃないと思ってたんだけど…。」 そう焦って伝えても、桜井の表情は変わらない。  え、いや待て。だって__…  『奏多はこっちじゃなくて、あっちにいなきゃなの。でも、鏡の気まぐれでこっちに来ちゃった。』  それって、俺が___…  「いや、ストップ!!」 俺は桜井の言葉を否定するのと同時に、自分の変な方向へ向かっている思考を止めたかった。  「桜井…。俺、やっぱ帰らなきゃなんだわ」  「あ、うん。」 唐突に言ってしまった。  「変な話をしちゃったね。でも大丈夫だよ。ここは生きてる人の世界だから。」 そう言う桜井の目は俺を捕らえて離さなかった。  「奏多くんは…」  「ごめん!帰る!」 急いで図書室から出た。    なんだ?  よくわからない。  けれど不思議な声が脳裏によぎってくるんだ。  『奏多、行かないで。私も連れていって…。それか、私が___…』  「奏多。」  「‼︎‼︎」 突然声をかけられて転んでしまった。そうだ。急いで走ってきたけど、踊り場まで来ていたんだ。  「ひ、ヒナコ…」 俺は怯えるように、ヒナコを見た。  「なんでそんな…。私、怖いかな?」 俺の目線がヒナコを傷つけたらしい。それでも俺はお構いなく、  「こ、怖いよ。最初から怖かったんだ。最初からヒナコなんて信じてないし、会いたいなんて思わなかったんだ。なのに、なのに…」  いや、本当は興味を持っていたんだ。でも、話を聞くにつれて怖くなってきたんだ。ヒナコに会うと、その話がどんどん進んでしまうようで、もう会いたくなかった。  「そっか…。私は奏多の邪魔者なんだね。」 また悲しそうに笑う。そんなヒナコを見ても、俺は立ち上がることもできず、震えていた。  「でもね、でもね…」  《__ポロポロ___》  ヒナコがが涙を流していた。俺はただ驚くだけだった。  「私は奏多に会いにきたんだよ。奏多が…。何も覚えてなくて、楽しそうにしてるのを見て、本当はこっちになんて来たくなかったのに…。」  「な、何も覚えてない?」 そう言った俺の方を向いて、ヒナコは言葉を続ける。  「うん。楽しそうに過ごす奏多を見てたら嬉しくて。私のことなんて覚えてなくても幸せだったの。でもね、でも…。鏡はそれを許してくれなかった。」  「ど、どう言うことだ…?」  「奏多はね…」  「死の世界にいるべき人なの。」  「は…?」 少し勘づいていた俺の思考がまた動き出す。生の世界と死の世界があったとして、俺が元々向こうの世界の人間だったとして、ここがこんなにも暖かい場所なら、きっと向こうは死の世界だ___。と思った。  そしたら俺は、  「死んでるって、ことか___…?」 その言葉にヒナコがビクッとする。そしてゆっくりと口を開く。  「うん、そう。私も、奏多も死の世界に帰らなきゃいけないの。生きてちゃダメなの。」  お、俺が…、死んでる?  自分の手を見ても普通の手をしているし、身体だって健康そのものだし。  そう思っていると、ヒナコが俺の目線に合わせるように、しゃがんだ。  「奏多。私と一緒に…かえろ…。」 そう言うヒナコは泣いていた。
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