0人が本棚に入れています
本棚に追加
生と死
「『生の世界』と『死の世界』?」
俺は聞き返してしまった。
「えっ、えっ?いやいや、どうした桜井!真面目な顔で言う話じゃないぞ。なんか厨二病入っちゃってるっていうか…」
少しおどけてみた俺の対応に、全く変化を見せない桜井の表情。
「待って待って。ちょ…、俺変な話嫌いなんだよ…。桜井はそういうの言う人じゃないと思ってたんだけど…。」
そう焦って伝えても、桜井の表情は変わらない。
え、いや待て。だって__…
『奏多はこっちじゃなくて、あっちにいなきゃなの。でも、鏡の気まぐれでこっちに来ちゃった。』
それって、俺が___…
「いや、ストップ!!」
俺は桜井の言葉を否定するのと同時に、自分の変な方向へ向かっている思考を止めたかった。
「桜井…。俺、やっぱ帰らなきゃなんだわ」
「あ、うん。」
唐突に言ってしまった。
「変な話をしちゃったね。でも大丈夫だよ。ここは生きてる人の世界だから。」
そう言う桜井の目は俺を捕らえて離さなかった。
「奏多くんは…」
「ごめん!帰る!」
急いで図書室から出た。
なんだ?
よくわからない。
けれど不思議な声が脳裏によぎってくるんだ。
『奏多、行かないで。私も連れていって…。それか、私が___…』
「奏多。」
「‼︎‼︎」
突然声をかけられて転んでしまった。そうだ。急いで走ってきたけど、踊り場まで来ていたんだ。
「ひ、ヒナコ…」
俺は怯えるように、ヒナコを見た。
「なんでそんな…。私、怖いかな?」
俺の目線がヒナコを傷つけたらしい。それでも俺はお構いなく、
「こ、怖いよ。最初から怖かったんだ。最初からヒナコなんて信じてないし、会いたいなんて思わなかったんだ。なのに、なのに…」
いや、本当は興味を持っていたんだ。でも、話を聞くにつれて怖くなってきたんだ。ヒナコに会うと、その話がどんどん進んでしまうようで、もう会いたくなかった。
「そっか…。私は奏多の邪魔者なんだね。」
また悲しそうに笑う。そんなヒナコを見ても、俺は立ち上がることもできず、震えていた。
「でもね、でもね…」
《__ポロポロ___》
ヒナコがが涙を流していた。俺はただ驚くだけだった。
「私は奏多に会いにきたんだよ。奏多が…。何も覚えてなくて、楽しそうにしてるのを見て、本当はこっちになんて来たくなかったのに…。」
「な、何も覚えてない?」
そう言った俺の方を向いて、ヒナコは言葉を続ける。
「うん。楽しそうに過ごす奏多を見てたら嬉しくて。私のことなんて覚えてなくても幸せだったの。でもね、でも…。鏡はそれを許してくれなかった。」
「ど、どう言うことだ…?」
「奏多はね…」
「死の世界にいるべき人なの。」
「は…?」
少し勘づいていた俺の思考がまた動き出す。生の世界と死の世界があったとして、俺が元々向こうの世界の人間だったとして、ここがこんなにも暖かい場所なら、きっと向こうは死の世界だ___。と思った。
そしたら俺は、
「死んでるって、ことか___…?」
その言葉にヒナコがビクッとする。そしてゆっくりと口を開く。
「うん、そう。私も、奏多も死の世界に帰らなきゃいけないの。生きてちゃダメなの。」
お、俺が…、死んでる?
自分の手を見ても普通の手をしているし、身体だって健康そのものだし。
そう思っていると、ヒナコが俺の目線に合わせるように、しゃがんだ。
「奏多。私と一緒に…かえろ…。」
そう言うヒナコは泣いていた。
最初のコメントを投稿しよう!