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午後8時、辺りはもう暗い。
俺は、明日までの課題プリントを学校においてきてしまったので、取りに来るために学校に来ていた。校門は空いている。まだ、先生が職員室にいるのだろう。先生に見つかっても別にいいのだが、堂々と職員室の前を通るのもためらわれたため、わざわざ遠回りをして教室に行くことにした。
ずっと静かだったからだろうか。廊下や階段を歩くときのコツコツという足音が妙に耳に響く。
シャッ、シャッ……。
どこかから、音が聞こえてきた。耳を澄ます。
ああ、なんだ、物理実験室からだ。物理の教師の山田は、いつも物理実験室でテストの採点をしている。「物理実験室でテストの採点をする山田」という異名がついたほどだ。
まあ、今はそんなことはどうでもいい。先を急ごう。
やっと教室についた。
……誰かいる!
よく見たら、それが吉田さんだとわかった。吉田さんは暗いなか、懐中電灯をつけて本か漫画かなにかわからないけれど読んでいた。吉田さんはいつも一人でいるイメージで、話しているところを見たことがない。そんな人が、ここでいったい何を?
吉田さんはよっぽど集中しているからか、教室の入り口に立っている俺に気づいていないらしい。あまり関わりたくなかったが、プリントを取りに教室に入らなければいけなかったし、何を読んでいるのか気になったから、とりあえず教室の電気を付けてみた。
「きゃっ!」
吉田さんが叫んだ。
「何を読んでいるの?」
俺は聞いてみた。
「いや、別に……」
とっさに本を隠されたから、何を読んでいるのか把握できなかった。
「別にいいけど」
そこまで問い詰める理由もなかった。プリントを取りに自分の席に向かう。
「……好きなの」
「え?」
「BLが好きなの!」
いきなりの告白に俺は戸惑った。
「田中さんが、BLの漫画を引き出しにいれてたから、気になって……」
吉田さんは今にも泣きそうな顔をしている。
「じゃあそれ田中さんのなの?」
「……うん」
なるほど、だから教室で読んでいたのか。
「……くんは、何してるの?」
「え、俺?」
「うん」
吉田さんが泣きそうな声で聞いてきた。
「俺は明日の課題プリント取りに来た」
「無いよ」
「え?」
次の瞬間、吉田さんの口から衝撃の言葉がこぼれた。
「明日は課題無いよ」
「え……」
あまりに衝撃的だったため、俺はその場に立ち尽くした。
「多分、課題は明後日だと思う」
「マジか……」
じゃあ、今日来る必要はなかったじゃないか。
「なんだよ、無かったのかよ。じゃあ帰るわ」
そう言って俺はその場をあとにした。あとは、ただ帰るだけ。
それだけの話。
完
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