胡蝶の夢

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来た日はあれ程覚悟を決め、目をつぶり、黙って横たわっていればそのうち終わるだろうと思っていたが、実際は中途半端に揶揄われる様な態度ばかり向けてくる。これではせっかくの覚悟が自壊してゆくばかり。 徐々に契りを交わす行為の実情を明かされ、嫌悪と言うより恐怖に近いものになってきている。 舌が絡み合う口吸い、耳を舐められる感覚、胸を触られた違和感、どれも良いもので無く、それら全て、それ以上の事を信長によってされるのを想像すると、恐怖だった。 昨日、侍女と過ごしている時、信長の側近が部屋を訪れた。 聞かれたのは当然の事ながら、契りは交わしたのかどうか。歳の項なのかはるかに歳下の自分に対し、正室である為か腰を低くし、かなり遠回しにに聞いてきた。信長が早々に城を出たところから、事を成したのか気になったらしい。 どうやら、この城の者達さえ信長の行動には頭を抱えている様子だった。正室を持てば、少しは落ち着くであろうと淡い期待を待っていた様だが、今のところ変わる気配は見えなかった。 夫、信長以外の者は常識人が揃っている様子。信長だけでなく、仕える者も男児を産むのを強く願っているのであろうと思うと、真の大うつけ者であったら良いのにと思ってしまう。 うつけ者と判断を下すには、日が浅すぎる。しかもまだ祝言が開けていない。この時点で刺しでもしたら、斎藤の家が潰される。ため息を吐き、子どもの様な顔をし眠る信長の顔を半ば恨めしく見ていた。 朝の身支度を侍女がしている時、声がした。 「昼間の内に湯浴(ゆあ)みし、髪も洗え」 信長が起きたらしい。 侍女が顔を見る。その言葉に逆らう理由も無い為素直に「はい」と返事をした。
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