胡蝶の夢

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雲を掴む様に何から何まで分からない相手。見下しているのかと思えば、魚を取り食べさせる。かと言い優しい言葉を言う事も無く、言えば命令口調。自分から近づこうなどとしてはいないが、それにしても分からない相手だというのだけは、濃姫の中ではっきりとしていた。 夕闇の部屋。 「……はぁ……はぁ……はぁっ」 横たわる濃姫の背中の真ん中の筋を人差し指が下から上がる。口で軽く噛まれ、舌を出し、背中を下に下りてゆく。 「分かっただろ……俺が夫で良かったと……」 とうとう濃姫は信長と契りを交わした。 湯浴みをし、髪を洗えと言ったのは、この為にだった。 それまで何故中途半端に揶揄うだけの行為で止まっていたのかは、分からない。分かるのは、契りを交わすというのは、教えられたものとはかなり異なり、精神的、肉体的に大きな負荷が掛るという事。女の力では、男に抗えない。男というのは、支配欲が大きいものなのだと、身をもって知った事。信長は、腑抜けでは無い。 鷹の様に突き刺す様な目、一度鋭い爪の足に捕まれば、逃げる事が出来ない。 口を奪われ、耳、首、肩、胸を舐めまわされ、(もてあそ)びむさぐられ、えもいえぬ感覚が走り、更に脚の間に手が忍びこみ、顔を埋められ舐められ、想像を絶するものが身体中を襲い、そして…… 信長の初めて見る…男の…男根…… 。それを見せられ、身体の中に入れられた。 痛みは、さほどでは無かった。それよりもあれが、自分の身体の中に入った時の感覚。明らかに異物が、普段感じない部分にあると、はっきりと分かるのが、不思議な感覚であり、信長に支配された、自分は信長の物なのだと、思いたく無い思いをした瞬間でもあった。
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