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とぉ〜りゃんせ、とぉ〜りゃんせ
こぉ〜こはどぉ〜この細道じゃぁ〜
天神様の細道じゃ〜
御用の無い者とおしゃせん〜
この子の七つのお祝いにぃ〜
………………
行きはよいよい、帰りは怖い
怖いながらも、と〜お〜りゃんせ、とぉ〜りゃんせ〜
ぼぉ〜んやりと浮かびあがる明かりが狐火かの様に連なっている。
お嫁入りの為の輿に乗った姫が、見知らぬ人の、妻となるべくして進む列。闇夜の中、音をたてずに進んで行く。向かう先は、新たな住まいとなる古渡城。
輿は到着し、祝言を挙げる部屋に向かう。
こじんまりとした部屋の中には、大紋を着た夫となる少年と、仕切り役の待上葛の女一人が居るだけ。部屋に上げられた輿から白い着物を着た僅かに幼さの残る、御歳十三歳の姫が、しずやかに出て来た。
両者対面し座り、ここで初めて互いの顔を知る。
夫となる少年は御歳十四歳。鷹の様に鋭い目をし、噂で聞く大うつけ者とは思えない、堂々とした姿。
妻となる少女は、豊かな髪が美しく、蝶の様に気高く、気品に溢れた姿。平安絵巻に出てくる美しい男女そのもの。
祝言は厳かに行われ、夫婦となった二人は奥の閨へと消えて行く。
待上葛は襖が閉められるのを確認し、言葉を残し、出て行った。
この部屋で、三日三晩二人は過ごす。
褥を挟み座る二人。最初に口を開いたのは斎藤道三の娘、濃姫だった。
「父上から言われている。もし、そなたが腑抜けた大うつけ者であれば、この短刀で殺せと」
脇に挿してあった目新しい短刀を両手で持ち、僅かに刃を出し、決して口先だけでは無く、本気であると示すかの様に、夫となったばかりの織田信秀の嫡男、信長に見せた。
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