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「何が寝ると……夫婦になったのに、何もせぬのか。そなた、もしやまことの腑抜けか? 何も知らぬと思って、揶揄っているのか? 」
「濃はそんなにしたいのか? なら続きは明日してやる。今夜は気が失せた…ほら見ろ、立ちが悪い……明日だ」
そう言うと、褥を剥ぎ股間を見せた。濃姫の呆れと怒りが増すばかり。どこからどう見ても自分を馬鹿にし揶揄っている様にしか見えない。
信長は濃姫の顔を見る事無く、背を向け、褥を掛けながら言った。
「昼間遊び過ぎたのかもな…」
追い討ちを掛ける一言。遊び過ぎた……昼間…… 。もちろん遊びとは遊戯などで無い事は分かる。祝言を挙げる大切な日に、妻を迎える日に、女と戯れていたとは…… 。肝心な妻に使いものにならない程、していたのかと思うと、返す言葉も出てこなかった。
濃姫は無言で横になり、信長に背を向けて眠った。
翌日、信長は奇怪な服装をして出て行こうとする。見た事の無い獣の皮で作られた半袴、夏と言えども湯帷子、意味不明の腰に付けた多量の瓢箪、正に、大うつけ……
「どこに行く、祝言の開けぬ間に」
濃姫が問うのは当たり前の事であった。祝言の日程は三日設けられている。要はその間、子作りに励んで早く子どもに恵まれるようにと定められているのだが、昨夜は当然の事ながら子が出来る様な物事は無く、二日目の朝餉が済んで早々に、明らかに一人で出て行こうとしているのだから、疑問に思わずには居られない。
「川で泳いでくる。女は居ない、安心しろ。妻を娶ったからには、他の女に手を出したりはしない」
何一つ悪気が無い様子で当然と答え、襖に向かい歩いていたが、立ち止まった。
濃姫は信長の考えている事、言動が何一つ分からない。正直に言えば、分かろうともしていなかった。
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