35人が本棚に入れています
本棚に追加
知覚、感情、精神的に不快に感じる感触が無くなったと安堵するのもつかの間、口を開けと命令口調で言われた。そう言われると嫌も何も、それ以前に何をしようとしているかさえ分からぬままに閉じる口を緩めた。
再び唇に重なる感触が来たと思うと同時に、口の中にとんでもないものが侵入してきた。
信長の舌が濃姫の舌に触れ、絡め、口内を孤立した生き物かの様に動き舐めまわす。
口吸いとは、互いの口を触れ合わせるものと聞いていたが、舌が侵入し、舌が触れ合い、歯の裏などまで舐め回されるとは微塵も思っていなかっただけに、衝撃が大きい。
息をする間も無く、驚きに硬直し、されるがままにしていたが、流石に苦しくなり顔を背けた。
信長は「どうした」とおかしげに聞いてくる。それに対し、顔を向ける事も、返事をする事も出来ない。動揺し、反応出来ない。
髪を耳にかけられ、耳元で囁かれた。
「驚いたか。……意外と可愛いところがあるんだな……」
濃姫には、恐怖の脅しの様にしか聞こえなかった。
すると、耳の外側を喰まれ、再び湿った舌がなぞり、中へと入ってくる。
「……いやっ! ……」
肩を強くつぼめ、目をくいしばり叫んでいた。
「ふんっ…」
信長は鼻で息を漏らし、嘲笑うかの様にすると部屋から出て行った。
濃姫は襖が閉まる音を聞くと、天井から吊るす糸が切れたかの様に、へなへなと壁に背を伝い座りこんだ。
口吸い……口を吸われると言うより、食われるに近いものだった。あれを好き好んでするとは、とても理解しがたい物事で、恐怖と不快の感覚と感情が身体中を巡る。
特に耳を咥えられ、舐められると全身に痺れの様なものが走る。その感覚がまた嫌でたまらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!